□産褥期に発病する単極性うつ病(以下,産後うつ病)の有病率は,日本では10%前後であり,産褥期精神疾患の中で最も高い頻度である。特に,産後6週間以内の早期発病群では,重症化しやすく,かつ入院する事例が多い1)。したがって,重症の産後うつ病の場合,自殺念慮の有無を確認して,精神科専門医との連携が必須である。
□産後うつ病の危険因子として,妊娠うつ病,マタニティー・ブルーズ,うつ病の既往歴,産科合併症,社会的支援の欠如,人生の予期せぬできごとなどが指摘されている。周産期に喪失体験を経験した女性では,うつ病に移行するリスクが高い。最新の米国の精神科診断基準DSM-52)では,罹病期間や症状などに人為的な線を引かず,悲哀反応を大きく「うつ病」の範疇に包括した。
□いずれにせよ,上記のような産後うつ病のリスクの高い女性に対して,妊娠期からの早期発見と予防的介入が推奨されている。
□産後うつ病の臨床症状を理解するには,米国の精神科診断基準DSM-52)の大うつ病性エピソードの症状を把握することが重要である(表)。
□①抑うつ気分,②興味や喜びの喪失,のいずれか,または両方の症状が少なくとも2週間以上持続しているかどうかを確認する。さらに,③食欲低下(増加),④睡眠障害,⑤精神運動性の制止・焦燥感,⑥気力の減退,⑦無価値感,⑧思考・集中力低下並び決断力の困難,⑨自殺念慮・企図,という7つの症状の中で5つ以上に該当する場合には,臨床症状上は大うつ病性エピソードと診断できる。ただし,臨床症状以外に,表のB,C,D,Eの項目にも該当するかどうかも確認する。
□緊急対応のリスクは順に,①産褥精神病(頻度は500~1000件の生産の中で1件程度と少ないが,産褥早期の2,3週以内に発病する急性精神病状態),②双極性障害のうつ病相(抗うつ薬による躁転の危険),③不安障害(全般性不安障害,強迫性障害,パニック障害,恐怖症,PTSD,急性ストレス障害など)に伴ううつ状態,となる。
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