皮膚は生体の最外表にあり、生物学的営みの上から重要な臓器となっています。一方で、整容的にも他人の視線に日々曝されており、皮膚の性状の変化が精神的に影響をもたらします。わずかなニキビで、自殺を図る人がいます。わずかに赤み(発赤)がなくなったことで、笑顔と自信がよみがえる人がいます。時に悲しく、時にうれしく、時に恥ずかしく、時に晴れがましく。この変化が、なぜか皮膚の性状にも微細な変化をもたらすのです。このような皮膚の状態をサイエンスするのが皮膚科学です。
皮膚科学はプライマリ・ケア
機械・検査に偏重しがちな現在の医療にあって、人間としての患者に直接密着した皮膚科学こそ、プライマリ・ケアの第一線です。すべての臨床医に必要な、患者をよくみること、患者に触れること、そして肉眼的な所見とその病理組織学的な病態とを関連づけて考えることを、皮膚科学は教えてくれます。
皮膚科学は難しくない
専門分野の一つとしての皮膚科学には難解な病名も多いし、漢字も難しい。しかし、皮膚の構造・機能はきわめて多岐にわたっており、未知のものに満ちた人間の身体を、直接目で見、手で触れることができるがゆえに、詳細な観察に基づいて疾患の種類・分類が細かくなったのです。皮膚科学の本当の面白味は、皮膚について、皮膚疾患についてよく考えることによって得られるはずです。
本書は、もともと月刊juniorに連載されたシリーズに、書き下ろしを加えてまとめたものです。560点に及ぶ写真やシェーマを盛り込んで視覚に訴える構成にしました。書き下ろしにより医師国家試験出題範囲の大半も押さえています。本書は疾患を羅列することを目的としたものではなく、初学者にも皮膚の病態の面白さを知ってもらえるように企画したものです。新しい疾患分類などにも触れていますので、卒後生涯教育の一助としてもお役立て頂ければ幸いです。
この目的がどの程度達成されたかは不明ですが、一人でも多くの読者の方に、皮膚科のイマジネーションを高めてほしいと念じております。
多忙な中、執筆して下さった皮膚科の先達の皆様に感謝します。また、本書をまとめるに当たり、著作を通して有形無形のアドバイスを賜った恩師、故・山田瑞穂先生(浜松医大名誉教授)に心から御礼を申し上げたい。
2008年10月
編者 古川福実