骨転移治療は骨修飾薬と内照射薬の登場で治療成績が向上し,これらが薬物療法であるという応用性から多くの腫瘍内科医が同領域に参入することになった。この結果,整形外科的治療,放射線治療,緩和ケアという,従来からこの治療領域において主流であった治療法とのコラボレーションが必要となった。また,進行がん全体の治療成績も向上しており,骨転移治療の包括的な治療方針を立てなくてはならない。多職種の医療提供者が関与する際の,コミュニケーションツールとしてのガイドラインの作成は必須である。
骨転移治療は,この10年間で大きく進歩した。その進歩とは骨修飾薬(bone modifying agent:BMA),内照射薬(radiopharmaceuticals)が登場したことである。もちろん,そのほかの領域でも進歩は認められるが,両剤は薬物療法であり,適応される領域は広い。従来からの主流である整形外科的治療や放射線治療が比較的限定された適応であるのに対して,BMAはほとんどの骨転移治療に適応可能であり,内照射薬も同様である。
また,たとえば鎮痛薬の効果は疼痛緩和に限定されるが,BMAには(Alpharadinのような内照射薬にも)疾患制御的なポテンシャルもあり,期待されるアウトカムも幅広い。BMAが薬物療法であることから骨転移治療は腫瘍内科医でも実施可能となり,従来,骨転移治療に積極的に参画する余地の乏しかった腫瘍内科医にも参入の途を開くに至った。
さらに,がん薬物療法全般の治療成績にも向上が認められるようになり,長期生存が可能となった。従来の整形外科的介入のように,生命予後の短さが故の適応除外の基準も再考する時期が来ているように思われる。生存期間の延長は複数の治療介入を時間的にも可能にしたが,その介入も同時が良いのか,逐次なのか,様々な組み合わせが考えられる。
このように骨転移治療の進歩は様々な介入と多数の医療提供者の参入を治療現場に招いたため,これらのクロストークとコミュニケーションが必要な状態ができた。骨転移診療ガイドライン作成の機運が高まったのは,時代の要請であるが,一方でガイドラインは学術書ではなく,現在の標準医療の水準が投影されている。私たちは,どのようなエビデンスに基づいて何ができるのか。事実と仮説を見きわめて診療にあたる必要がある。
ガイドラインは,1つのコミュニケーションツールである1)。それは,医師と患者間だけでなく,それぞれの専門医の間や医師,看護師,薬剤師,理学療法士などの医療提供者の間,そして医療提供者と研究者・製薬企業の間,さらに医療界と一般社会の間のコミュニケーションに活用される。医師と患者間では標準的な治療の提示に,専門医間や医療提供者間ではチーム医療につながる。また,医療提供者と研究者・製薬企業の間では新治療の開発につながり,さらに医療界と一般社会の間では医療訴訟などの基準として採用されることもある。このように診療ガイドラインの制定は,社会的にもきわめて大きなインパクトを持つことに留意しなくてはならない。そして診療ガイドラインの作成により診療プロセスや患者アウトカムの改善が期待されることになる。
現在,ガイドラインは世界的にGrading of Recommendations Assessment,Development and Evaluation(GRADE)システムで作成される方向にある2)。GRADEシステムがMindsシステムと大きく異なる点はエビデンスの評価部分にある。エビデンスの質を臨床試験のスタイルだけで決めるのではなく,エビデンスに対する批判的吟味を行い,研究の限界,結果の非一貫性,エビデンスの非直接性,データの不正確さ,出版バイアスの可能性などを考慮する。最終的にエビデンスの質を「高(推定効果に高い信頼性が認められる)」,「中」,「低」,「非常に低い(推定効果が憶測されるにすぎない)」の4段階で評価する。エビデンスの質が高い治療でもすべての患者にとって良いとは限らない。すなわち,治療介入を行う際には,どんなに優れた治療であっても有害事象が発生する可能性はゼロではなく,益と不利益の兼ね合いを考慮した患者の意思決定が必要となる。GRADEシステムでは治療に対する患者の価値観や好みを反映させるところも特筆される部分であり,審査のプロセスの透明性も高くなる。
さらに,完成したガイドラインは外部評価を受けることが望ましく,それによりさらに熟成の過程を経ることとなる。一般的にガイドラインの評価はAppraisal of Guidelines for Research&EvaluationⅡ(AGREEⅡ)で行われる。AGREEⅡでは,①対象と目的の明確さ,②利害関係者の参加の程度,③作成の厳密性,④推奨の明確さと提示の仕方,⑤推奨の適応可能性への言及,⑥編集の独立性など,23項目にわたる評価を受ける。
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