MRIやCT検査で何の異常もない腰痛患者の中に、仙腸関節由来の痛みが紛れている─。そうした考えから、20年以上にわたり仙腸関節障害の治療を続け、2009年に日本仙腸関節研究会を立ち上げた村上栄一氏(JCHO仙台病院副院長)に話を聞いた。
まず、仙腸関節の役割から説明します。仙腸関節は骨盤にある仙骨と腸骨をつなぐ関節で、股関節の直上に位置し、上半身の体重を支えています。可動域は数ミリときわめて小さいことが特徴です。
自動車や飛行機には急激な衝撃を抑えるためにダンパー(油圧式負荷吸収装置)と呼ばれる緩衝装置が使用されていますが、仙腸関節もダンパーと似た働きがあると考えられます。負荷がかかった瞬間に関節がロックして関節面と後方の靭帯で衝撃を受け止め、徐々に関節が動いて負荷を緩衝しながら下肢へ安全に逃がす─。こうした働きがあるおかげで、人間は木から地面に着地して、ケガをすることなくすぐに走るという動作ができます。
ただ、反復性の作業の繰り返しや、中腰で不用意に重い物を持ったりして骨盤周囲の筋の協調運動に破綻が生じると、仙腸関節の関節面に微小なずれや不適合が生じ、周辺の靭帯や筋肉に痛みが発生してしまいます。これが仙腸関節障害です。過去の私の調査では、新患の腰痛患者のうち、仙腸関節障害は1割を占めていました。
仙腸関節障害は他の関節の機能障害と同様にMRIやCTで特異的な所見は得られません。そこで、患者さんに疼痛の最も強い部位を1本指で示してもらう「ワンフィンガーテスト」を考案しました。最も特徴的な疼痛域は、上後腸骨棘周辺の臀部ですので、ここを指せば仙腸関節由来の疼痛である可能性が高い。さらに、仙腸関節への疼痛誘発テストを行い、仙腸関節由来の痛みが疑われれば、局所麻酔薬を関節に注射する仙腸関節ブロックを行い、70%以上の疼痛の改善を得た症例を仙腸関節障害と診断しています。今年論文発表した調査では、ワンフィンガーテストで上後腸骨棘周辺を指した人の85%が仙腸関節障害でした。