(千葉県 K)
突発性難聴は原因不明の急激に発症する高度感音難聴と定義づけられています。2012年の厚生労働省特定疾患急性高度難聴研究班の改定案では,参考として,「純音聴力検査にて隣り合う3周波数で各30dB以上の難聴が72時間以内に生じた」という国際的な診断基準で採用されている事項が追加されています。突発性難聴は原因不明の急激に発症する高度感音難聴という疾患概念ですので,いくつかの病態が混在しており,原因究明を難しくしています。
これまでの純音聴力検査における聴力型による分類に基づく研究から,低音障害型感音難聴を別の疾患概念として分離することが推奨されています1)。また,突発性難聴型を発症する聴神経腫瘍症例が少なくないことが明らかとなり,突発性難聴診断においてMRI検査によって聴神経腫瘍を除外診断することが米国の突発性難聴ガイドラインでは強く推奨されています2)。聴神経腫瘍がどのような機序で感音難聴を引き起こすのかを分子生物学的に解析する研究も行われており,突発性難聴のメカニズム解明に貢献する可能性があります。
残念ながら,突発性難聴の原因究明については,治療法の転換につながるような大きな発見は今のところなされていません。近年は遺伝子や蛋白質などを網羅的に解析し,バイオインフォマティックスと呼ばれる解析手法を用い,膨大なデータから病態の要因となる因子をつり上げてくる研究手法が様々な分野で行われ,疾患メカニズムの解明に寄与しています。突発性難聴にもこのような研究手法が応用され,関連する遺伝子の検索などが行われています。しかしながら,突発性難聴は様々な病態によるものが混在していることから,網羅的な解析で単純に病態を特定することは困難です。原因究明の第一歩は,突発性難聴という複数の病態からなる集団を適切にサブグループに分類する方法を見出すことではないかと考えています。
治療法の現況についてですが,現在わが国で保険適用とされている治療法は,副腎皮質ホルモン製剤の内服・点滴,蛇毒由来のフィブリノゲン阻害薬であるバトロキソビン(デフィブラーゼⓇ)の点滴,高気圧酸素療法となります。2012年に米国の突発性難聴診断・治療のガイドライン2)が発表されていますが,これらの治療法は推奨されておらず,副腎皮質ホルモン製剤内服と高気圧酸素療法は,メリットとデメリットを十分に説明した上で行うオプションという評価がなされており,抗血栓療法などの循環改善に関しては推奨しないという評価がなされています。
米国のガイドライン2)では,唯一中耳への副腎皮質ホルモン製剤局所投与(中耳腔へのステロイド注入)が推奨されていますが,わが国では適用外使用となることに注意する必要があります。わが国でも突発性難聴診断および治療のガイドライン作成が進行中です。臨床研究あるいは治験などで,新規薬物として,c-Jun N-terminal kinase inhibitorやIGF-1などの中耳腔への局所投与が検討されています。
【文献】
1) Yoshida T, et al:Acta Otolaryngol. 2017;137 (Suppl 565):S38-43.
2) Stachler RJ, et al:Otolaryngol Head Neck Surg. 2012;146(3 Suppl):S1-35.
【回答者】
中川隆之 京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科講師