循環器系治療薬以外で,致死的な不整脈であるtorsade de pointes(TdP)を生じる薬剤が存在することはよく知られている。抗アレルギー薬terfenadineと抗真菌薬ケトコナゾールを併用した患者にTdPが発現したことが報告されて以降,危険性が指摘されてきた薬剤は少なくない。薬剤性TdPは薬物が心筋細胞活動電位の中でも,カリウム電流を阻害することによって発生のリスクが増大するものである。カリウム電流の阻害は体表面心電図ではQT間隔の延長として観察できる。
潜在的なTdPのリスクの有無を検討するために,新薬開発の過程ではICH-E14ガイドラインが制定され,ほとんどすべての新薬について心電図QT間隔の検討が必須となっている。この効果か,ICH-E14施行以降はTdPにより市場を撤退した薬剤はない。臨床家にも薬剤性TdPの重要性はよく認識されており,その発現は減少しているものと考えられている。
一方で,心筋細胞そのものに傷害を与える薬物について問題提起が行われている。抗癌剤はがん細胞への効果,生存期間の延長などが重要視されてきたが,もともとアントラサイクリン系などの抗癌剤は薬理作用として心筋傷害があることが知られており,心疾患によるQOLの低下,死亡などが無視できなくなっている。最近の多剤併用療法が抗癌剤の心毒性にどのような影響を与えるかについては,十分な検討が行われていると言えない状況にあり,cardio-oncologyの必要性が認識されている。早い段階から心毒性の徴候を検出し,個々の対応が可能な体制の確立が求められる。
【解説】
熊谷雄治 北里大学病院臨床試験センターセンター長