(東京都 T)
1歳以上で2回の接種「記録」があればよいと考えます。「記憶」はあてになりませんので,母子健康手帳等の記録により確認することが大切です。記録がなければ受けていないと考えます。また,0歳で接種したワクチンは免疫の獲得が十分ではないので接種回数には含めず,1歳以上で受けたワクチンの回数を「記録」で確認します。
2013~2015年度の感染症流行予測調査によると1),予防接種歴別の抗体保有〔ゼラチン粒子凝集(particle agglutination:PA)法で1:16以上〕率は,接種歴なし群で68.5~77.8%,接種歴1回あり群で97.4~98.1%,接種歴2回以上あり群で98.5~99.2%でした。ただし,修飾麻疹を含めた発症予防には,1:128以上のPA抗体価が必要と考えられており,接種歴なし群で58.0~69.6%,接種歴1回あり群で87.1~88.3%,接種歴2回以上あり群で88.7~91.1%の抗体保有(1:128以上)率でした。
麻疹を含むワクチン(以下,麻疹含有ワクチン)には,麻疹ワクチン,麻疹風疹混合(MR)ワクチン,麻疹おたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチンの3種類がありますが,2018年現在,日本で接種可能なワクチンは,麻疹ワクチンとMRワクチンの2種類です。
麻疹ワクチンは製造量も少なく,風疹予防も同時に重要であることから,使用するワクチンはMRワクチンが推奨されています。すべての麻疹含有ワクチンは,遺伝子型Aの麻疹ウイルスで製造された弱毒生ワクチンです。麻疹ウイルスには24種類の遺伝子型が報告されていますが,麻疹ウイルスの血清型は1つであり,ワクチンはすべての遺伝子型の麻疹ウイルスに高い予防効果があります。
2018年は第1~20週までに162人が報告されていますが,2回接種ありの人は162人中17人(10%)と少なく,さらにその多くは症状の軽い修飾麻疹であることがわかっています(図1)2)。修飾麻疹は症状が軽いのみならず,周りの人への感染力も弱いとされている3)ことから,まず1歳以上で2回の予防接種の「記録」を持つことが大切です。
麻疹患者と空間を共有して,麻疹ウイルスの曝露を受けた場合は,72時間以内に緊急ワクチンを接種することで発症を予防できる可能性があります。使用するワクチンはMRワクチンが推奨されます。一方,72時間を過ぎていても,間に合わない可能性があることをていねいに説明した上で,3次感染予防としてMRワクチンを受けることも選択肢の1つです。
どんなに緊急であっても,接種不適当者に該当する人には接種してはなりません。妊娠出産年齢の女性は,ワクチン接種後2カ月間は妊娠を避ける必要があります。50歳以上の成人については,多くは既に麻疹の罹患歴があるので心配は要りません。2018年の麻疹報告数をみても,162人中50歳以上は6人(3.7%)でした。麻疹に罹ったことがある人や,ワクチン接種不適当者は麻疹抗体価を測定して,麻疹ウイルスに対する抗体の有無を確認しておくことが勧められます。
ワクチン接種歴が1回の人はあと1回の接種が勧められますが,全国の1回接種者がワクチンを接種するとワクチンが足りなくなってしまいますので,可能な限り早期のMRワクチンの接種が推奨される人については,「麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方」4)をご参照下さい。そして,今回の集団発生が落ち着いたら忘れずに,必要回数である2回の予防接種歴を記録で持っておくようにしてほしいと思います。
【文献】
1) 国立感染症研究所:感染症流行予測調査.
[https://www.niid.go.jp/niid/ja/yosoku-index.html]
2)国立感染症研究所感染症疫学センター:注目すべき感染症 麻しん2018年第1〜20週(2018年5月23日現在).
[https://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-m/measles-idwrc/8078-idwrc-1820.html]
3)駒林賢一, 他:IASR. 2018;39:59-60.
[https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2429-iasr/related-articles/related-articles-458/7965-458r06.html]
4)国立感染症研究所感染症疫学センター:麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方.
[https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/MRvaccine_20180417.pdf]
【回答者】
多屋馨子 国立感染症研究所感染症疫学センター 第三室室長