すべての内科および小児科機関においてインフルエンザ様疾患罹患時に異常行動を示した症例の情報を収集し,インフルエンザ様疾患罹患時の異常行動について要因の分析を行った。その結果,2006/07〜2013/14シーズンのいずれの期間においても,薬剤の使用と異常行動の発症について特定の関連は示されなかった。しかし,いずれのノイラミニダーゼ阻害薬の使用例においても重度な異常行動が報告された。よって,すべてのノイラミニダーゼ阻害薬の添付文書での10歳代患者の使用への注意喚起は妥当である。また,調査対象薬剤未使用での重度な異常行動の発症例も報告されていることから,抗インフルエンザウイルス薬の使用の有無にかかわらず,保護者は注意が必要である,とした注意喚起もきわめて妥当である。
2007年2月,インフルエンザに罹患した2人の中学生が相次いで高所から飛び降り,死亡するという痛ましい事故が報告された。こうした報告を受けて,同年3月,合併症や既往歴などからハイリスク患者と判断される場合を除き,オセルタミビルの10歳代患者への使用を差し控える旨の緊急安全性情報が出された1)。そのほかの抗インフルエンザウイルス薬についても,添付文書において,使用上の注意として10歳代患者の使用に関して注意喚起がなされている2)~5)。また,厚生労働省は,同年4月以降,抗インフルエンザウイルス薬の使用の有無にかかわらず,保護者は注意が必要である,として注意喚起をしている6)。
インフルエンザ罹患時における異常行動の発症,特に異常行動と使用薬剤の発症の関連について,多くの研究が行われてきた7)~17)。しかしながら,2015年4月現在,異常行動の発症の要因は明らかにされておらず,異常行動と使用薬剤の発症の関連は示されていない。
本稿では,「インフルエンザ様疾患罹患時の異常行動に関する研究」(厚生労働省厚生労働科学研究委託費医薬品等規制調和・評価研究事業研究代表者:岡部信彦)による,全医療機関におけるインフルエンザ様疾患罹患時に異常行動を示した症例の情報を収集し17)18),インフルエンザ様疾患罹患時の異常行動における要因の分析結果を報告する。
調査対象はすべての内科および小児科機関とした。報告対象は,インフルエンザ様疾患と診断され,かつ,重度な異常行動を示した患者とした。重度な異常行動とは,飛び降り,急に走り出すなど,制止しなければ生命に影響が及ぶ可能性のある行動,と定義した。報告方法はインターネットまたはFAXとした。
インフルエンザ様疾患とは,臨床的特徴(上気道炎症状に加えて,突然の高熱,全身倦怠感,頭痛,筋肉痛を伴うこと)を有しており,症状や所見からインフルエンザと疑われる者のうち,
①次のすべての症状を満たす者(突然の発症,38℃以上の高熱,上気道炎症状,全身倦怠感などの全身症状)
②インフルエンザ迅速診断キットで陽性であった者
のいずれかに該当する者とした。また,他者による制止がなければ生命に関わる可能性が特に高い,飛び降りと急に走り出す,の2つを最も重度な異常行動とした。
調査期間は各年11月1日から翌年3月31日とし,2006/07~2013/14シーズンの8シーズンを比較した。2006/07シーズンのみは研究の初年度であり,後ろ向き調査である。
分析は,すべての重度な異常行動および最も重度な異常行動(飛び降り,急に走り出すのみ)の発症の例数,年齢,インフルエンザ迅速診断キットによる検査結果,使用薬剤について行った。
使用薬剤は,オセルタミビル(2006/07シーズン以降),アマンタジン(2006/07シーズン以降),ザナミビル(2006/07シーズン以降),アセトアミノフェン(2006/07シーズン以降),ペラミビル(2010/11シーズン以降),ラニナミビル(2010/11シーズン以降),テオフィリン(2012/13シーズン以降)の使用の有無が明らかな症例を集計した。
本研究は,国立感染症研究所医学研究倫理審査を受け承認されている(受付番号129,216,261,312,375,462「インフルエンザ様疾患罹患時の異常行動の情報収集に関する研究」)。
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