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胸痛[今日読んで、明日からできる診断推論 実践編(4)]

No.4698 (2014年05月10日発行) P.49

監修: 野口善令 (名古屋第二赤十字病院 副院長・総合内科部長 )

小田浩之 (飯塚病院総合診療科診療部長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2024-09-18

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  • 病 歴

    突然の胸痛を主訴に受診した64歳,男性。座ってテレビを見ているときに発症した前胸部痛が1時間持続し,徐々に増悪した。冷汗を伴っている。

    スナップ診断

    「64歳,男性,突然発症の1時間持続する胸痛」のみではスナップ診断は難しいが,4 killer chest pain(急性冠症候群,大動脈解離,肺塞栓症,気胸)は見逃さないようにする1)


    分析的アプローチ

    ■なぜその疾患名が挙がったのか

    突然発症で急速に増悪する胸痛では,血管が詰まる・裂ける・破裂することで生じる循環不全・臓器虚血をきたす疾患を早期に診断,あるいは除外しなければならない。まずは,ACS,大動脈解離の可能性を上げ下げする病歴を確認していく。患者の状態によっては,12誘導心電図の施行を詳しい病歴聴取に先行させることもあるし,酸素投与,モニター装着,輸液路確保を並行して行う必要性も生じるかもしれない。

    ■安定か不安定かを見わける

    ①不安定である場合
    生体の不安定さを示唆する所見とは,急性左心不全やショック,それらを代償しようとする生体反応と言い換えることができる。その生体反応とは交感神経の亢進症状であり,頻脈,頻呼吸,発汗,口渇,気分不良といった症状を呈する。急性左心不全やショックによる症状は,循環不全による局所症状であり,呼吸苦,意識障害,胸痛,腹痛,四肢のしびれなどが生じうる。
    バイタルサインの崩れは,原疾患による代謝障害を代償できなくなっていることを意味する。頻脈が徐脈に,頻呼吸が徐呼吸になっていく状態を見逃してはならない(特に徐呼吸は見逃されがちである!)。その先にはCPA(cardiopulmonary arrest)が待っている。
    上記の徴候があった場合,救命救急センター搬送を念頭に置いたマネジメントに切り替える。「胸痛+交感神経亢進」では,致死的胸痛に関する評価を迅速に行う必要がある。

    ②安定している場合

    「胸痛」を訴える患者でバイタルサインが安定している場合は,頻度・重症度がともに高いACSの診断,あるいは除外から考えていく。典型的胸痛(LR 5.8),非典型的胸痛(LR 1.2),心筋梗塞の既往(LR 2.3)や右肩・腕や両腕に放散する痛み(LR 4.5前後),発汗(LR 2)などが可能性を高める病歴である(LR:likelihood ratio,尤度比)。
    典型的なACSの診断は比較的容易である。しかし,非典型例も多く,ACSの可能性は低いと考えても確定診断できるまでは気をゆるめてはならない。非典型例の診断に有用なものは,ACSの可能性を下げる所見である。胸膜痛(LR 0.2),体位により出現する痛み(LR 0.3),鋭い痛み(LR 0.3),触診にて再現性がある痛み(LR 0.3)であり,この場合,胸膜疾患,筋骨格系の疾患を考えていくことができる2)
    大動脈解離を示唆する所見として,突然発症(LR 1.6),裂けるような痛み(LR 1.2〜10.8),移動する痛み(LR 7.6),脈拍欠損(LR 5.7),神経学的異常所見(LR 6.6〜33.0)がある。以上の症状を,3つの病態である「大動脈壁の解離とそこへの血液流入」「広範囲の血管への病変の伸展」「血管の状態が①拡張,②破裂,③狭窄または閉塞」という点でとらえると,理解しやすい4)〜6)

    私のクリニカルパール

    まずは,患者の呼吸・循環状態が「安定」か「不安定」かを評価する。不安定であれば,マンパワーが整い初期治療ができる病院へ移動させながら情報収集を行う。

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