70歳,女性。主訴は全身倦怠感。4日ほど前から腰に鈍痛を感じており,市販の解熱鎮痛薬を内服していた。来院前日から腰の痛みが強くなり,寒気も出現していたが,風邪だと思い医療機関を受診せず自宅で様子をみていた。来院当日の朝,ベッドから自分で起き上がることができない状態でいるのを家族が発見し,自家用車で来院した。
来院時は,顔色が悪く,ぐったりしているが,受け答えは可能な状態であった。患者の手を取ってみると,橈骨動脈は触知するものの脈拍は非常に速かった。爪床を圧迫したところ,毛細血管の再充満時間は2秒を超えていた。
まず重要なのは,この状況からショックを認識することである。
ショックの鑑別診断と,体調不良の経過を経てショック状態となっていることから,敗血症性ショックが最も疑われる。腰痛というエピソードからは,大動脈瘤破裂など腰部の大血管病変の可能性も考えられる。診察の過程では,ひとつの疾患に限定することなく,ショックの分類(表1)1)に当てはめながら診察を進めることが重要である。
患者の状態を,ただの体調不良ではなくショックであると認識を改め,ショック状態となる病態を中心に鑑別診断を進めることとした。ただの体調不良よりもショックを呈する病態のほうが緊急性が高く,考えられる疾患も限定されるためである。
来院前に体調不良の期間があり,寒気も伴っていることから,体温の情報はないが発熱のエピソードがあったと考え,敗血症性ショックの可能性をまず考えた。
ショックをきたす他の鑑別疾患としては,大動脈瘤破裂と消化管出血という出血性ショックを呈する疾患を考えた。大動脈瘤破裂は大動脈瘤が破裂する直前に痛みを伴うことがあるため腰痛を訴えていたという病歴から,消化管出血は解熱鎮痛薬を内服しているという病歴から候補に挙がった。
血圧が測定される前に,患者の意識状態,顔色,脈の触知,皮膚所見,爪床毛細血管の再充満時間など,短時間で得られる身体所見からショックを早期に認識する。
ショックでは迅速な対応が要求される。酸素投与を開始し,末梢静脈路確保を行い,同時に血液検査用の検体を採取する。敗血症性ショックが疑われる本症例では,血液培養検体を2セット採取する。
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