(高知県 F)
【どちらで測定してもよいが,毎回同様の条件で継続的に測定することが肝要】
血圧測定を左右いずれで行うべきかの決まりはありませんので,どちらの腕で測定しても結構です。元来,上腕血圧に左右差はほとんどありませんので,まず初めに左右差がないことを確認すれば,どちらで測定しても結構です。いつも同じ環境,同じ状況で測定し,その変動をチェックすることが重要です1)。
常に再現性をもって10mmHg以上の差がある場合には,左右差ありと判断します。15mmHg以上の左右差は,心血管イベントの有意なリスクファクターとされますが2),それは血圧低値を示す側の動脈に何らかの血流制限をきたす病変の存在が示唆されるからです。すなわち動脈硬化性の狭窄病変や,若年女性では大動脈炎症候群(高安動脈炎)などの炎症性病変,あるいは大動脈解離が鎖骨下動脈に及ぶなどの機械的狭窄病変の存在などが示唆されるからでもあります。したがって,有意な左右差のある場合には,高値側が正しく全身の血圧値を反映していると考えられますので,血圧管理は高値側の測定血圧値に基づいて行います。無論,血圧低値側の動脈の病変は,別途検索して頂く必要があります。
私個人の方法で恐縮ですが,初診の患者には,必ず左右上腕の血圧と臥位・立位の血圧測定を行い,起立性低血圧の有無を確認します。再診患者では,左右差のないことがわかっている人でも習慣的に毎回左右を計測して記録することをルーチンにしています。これは,一度の受診機会に必ず血圧値を再検し確認することがそもそもの目的でしたが,同じ側で複数回測定するより付加価値を求めて始めたことです。同時に対側で血圧値を再検することで,新たな左右差の出現を検出する目的にも叶います。実際,再診時に左右の血圧値を測定していたために,外来受診のインターバルに無症候性の大動脈解離が発生して鎖骨下動脈に波及していることを発見することができた経験があります。左右の血圧を測定するためにわずかな診察時間を追加することが,確かな医師・患者関係の構築に役立つものと思います。
話がそれましたが,日常の家庭血圧を含め,血圧測定は左右いずれの腕で測定されても結構ですが,毎回同様の条件で継続的に測定することをご指導頂きたいと思います。
【文献】
1) 長谷部直幸:日内会誌. 2011;100(2):343-50.
2) Clark CE, et al:Lancet. 2012;379(9819):905-14.
【回答者】
長谷部直幸 旭川医科大学内科学講座循環・呼吸・神経病態内科学分野教授