(高知県 F)
【自発性異常味覚と言い,量的味覚異常に対して質的味覚異常に分類される】
何も食べていないのに常に口の中が苦いという症状は「自発性異常味覚」と言い,「味覚低下・消失」のような量的味覚異常に対して質的味覚異常に分類されます。
検査方法は,まず味覚機能を評価する必要があるため,電気味覚計(図1)による検査と濾紙ディスク法(図2)を行います。前者はスプーンをなめたときに感じるような金属味がどのくらいの電流で検知できるかを定量的に評価します。後者は甘味,塩味,酸味,苦味の4味質5段階の濃度を使用し,定性的に評価をします。質的味覚異常ではこれらの検査で異常が認められない場合も多いのですが,味覚機能が低下しているようなら量的味覚異常の随伴症状として考えられます。
さらに血清亜鉛,鉄,銅値を測定して,亜鉛,鉄の欠乏,また銅が相対的に高値になっていないかをチェックします。時間帯で測定値は変動しますので,午前中に統一して行ったほうがよいでしょう。
味覚障害の原因としては,亜鉛欠乏,薬剤,糖尿病,腎不全などの全身疾患,感冒,舌粘膜疾患,心因性などが挙げられます。原因不明の場合,特発性として分類されますが,その中には加齢性や潜在性亜鉛欠乏なども含まれます。自発性異常味覚の場合,症状の特徴や治療が類似していることより,舌痛症と同様の病態が存在する可能性も示唆されます。
今回,内服している薬剤のうち,リマプロスト,リセドロン,ラベプラゾール,レバミピド,オロパタジンは添付文書に味覚異常についての記載がありますが,頻度は高くありません。
治療法は,薬剤性の場合においては原因薬剤の中止,全身疾患性では原因疾患のコントロール,亜鉛欠乏性(潜在性含む)では亜鉛補充療法が原則行われます。加齢性の場合は八味地黄丸などの補腎剤が功を奏す場合も経験します。亜鉛内服療法も漢方療法も長期間にわたって投与することが多く,3~6カ月間は継続します。
自発性異常味覚や異味症などの質的味覚異常では亜鉛内服療法の有効率は量的味覚異常よりも悪く1),効果が乏しい例では時に漢方や抗不安薬,抗うつ薬が奏効する場合があります。もともとベンゾジアゼピン誘導体は,おいしさそのものを認知する過程に関与しているとされており2),比較的新しい抗うつ薬,ノルアドレナリン作動性特異的セロトニン作動性抗うつ薬(noradrenergic and specific serotonergic antidepressant:NaSSA)であるミルタザピンも,高齢者における食欲増進効果が期待されることから,抑うつ状態を呈する高齢者に使用されることがあります。
当科ではロフラゼプ酸エチルやミルタザピンなどを使用することが多いのですが,眠気,ふらつき,認知症発症,依存などの副作用に気をつける必要があります。
【文献】
1) 西井智子:口腔・咽頭科. 2018;31(1):131-5.
2) 山本 隆:綜合臨. 2004;53(10):2719-25.
【回答者】
任 智美 兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室 講師