すべての抗癌薬に中枢神経毒性(特に可逆性後部脳症症候群)の可能性がある
抗癌薬投与後に神経症状や認知障害を呈した場合,薬物による中枢神経毒性の可能性を念頭に置くべきである
がん薬物療法による中枢神経毒性に関しては,脳神経外科,神経内科,精神科をバックグラウンドとする専門家による優れた総説が数多く存在する。しかし,最近新たに開発された抗癌薬である,分子標的薬の多彩さは複雑で,がん専門医による現状の把握が望まれていた。私が部会長を勤める日本がんサポーティブケア学会神経障害部会は,2017年に「がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き」(金原出版)を公表したが1),今回は多種にわたる抗癌薬の最新報告をもとに,中枢神経系のマネジメントに関して症候別にまとめた。全脳照射など脳への放射線照射単独および抗癌薬併用も中枢神経毒性を引き起こすが,枚数の関係上ここでは割愛した。
可逆性後部脳症症候群(posterior reversible encephalopathy syndrome:PRES)の概念は,1996年にHincheyらが臓器移植後や免疫抑制療法中に,急性高血圧脳症や子癇患者などで中枢神経症状を呈し,2週間以内に回復した症例を報告したことに始まる2)。薬剤投与の翌日〜数カ月後に頭痛,意識障害,痙攣,皮質盲をきたし,多くは血圧上昇を伴う。数日〜数週間の経過で臨床的にも画像所見にも改善がみられ,比較的予後は良好である。最近は,後述する中毒性白質脳症よりも抗癌薬によるPRESの報告例のほうが圧倒的に多い。