化学療法誘発性末梢神経障害には様々な分類がある
薬剤により神経障害部位は異なる
明確に確立された治療法はまだない
神経細胞の役割は,受け取った信号を他の細胞に伝達することである。すべての細胞において,細胞膜の内外ではイオンの組成が異なるため電位差が生じている。この電位差を利用したものが神経信号伝達メカニズムの本質になる。化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy:CIPN)は,化学療法により末梢の神経信号伝達システムが障害された状態である。その病態は様々であり,現時点では明確な予防法も治療法も確立されていない。本特集は,その神経障害をなんとか克服したいと思う人へ向けて,少しでも役立てたらとの思いを込めたまとめである。
末梢神経障害の原因は多種多様で,一般的な診断の流れは臨床症状および病態の分析を行い,それから原因の特定に至ることが多い。化学療法施行中に末梢神経障害特有の症状が出現した場合は,症状とその原因になりうる薬剤の使用をもってCIPNの診断に至るのが現状である。しかし,がん治療中は様々な病態が複雑に絡み合っているため,背景因子をしっかりと把握した上での診断が必要である。
末梢神経障害は,種々の因子により分類される。病因により腫瘍性,薬剤性,感染性,代謝性などに,症状によって感覚性,運動性,自律神経性に,分布によって単神経性,多発神経性などに,障害部位によって軸索障害性,髄鞘障害性などに分類される(表1)。化学療法中に末梢神経障害を認めた場合には,これらの分類のどこに当てはまるかを考える必要がある。具体的には,感覚性障害と運動性障害のどちらが優位なのか,腫瘍による圧迫はないのか,糖尿病やアルコール多飲,ビタミン欠乏はないのか,左右対称性なのかなどの確認が必要である。多くは他の原因が除外されなければ,薬剤性と診断することはできない。
髄鞘障害性では電気生理学的に末梢神経伝導速度の遅延を認め,軸索障害性では活動電位振幅の低下と針筋電図での脱神経所見や神経原性変化がみられるが1),現状では臨床試験も含めてほとんどが電気生理学的検査は施行されておらず,主観的評価により診断されている。がん治療の現場では副作用を抑えながら治療継続しているため,できるだけ侵襲のある検査は避けたいと誰もが考えており,分類を考えるだけで薬剤性が除外されることもあるため,その分類は重要である。