【新しい疾患概念として,近年股関節インピンジメントが提唱された】
股関節周辺に痛みをきたすスポーツ傷害には,大腿骨頸部と寛骨臼縁が衝突する股関節インピンジメント(FAI),股関節唇損傷,恥骨結合炎などの器質的疾患を伴うものや,明らかな器質的原因がなく痛みをきたす鼠径部痛症候群等がある。
中でもFAIはGanzらによって提唱された比較的新しい疾患概念であり,アスリートにおける股関節痛の最近のトピックスである。股関節周囲の骨形態異常に,スポーツなどによる繰り返しの股関節運動が加わり発症し,そのインピンジメントの結果として発生する股関節唇損傷や軟骨損傷が疼痛を誘発すると考えられている。FAIの骨形態は,寛骨臼側の過剰被覆を示すpincer type,大腿骨頸部移行部の膨隆を示すcam typeが挙げられる。わが国においても,2015年に日本股関節学会がFAIの診断指針を示しており,この指針に基づいた診断が推奨される。
自覚症状としては,股関節屈曲時の疼痛を訴えることが多く,他覚症状は,股関節90°屈曲,内転,内旋で疼痛があり,関節唇を圧迫すると疼痛が誘発されることが多い。
治療は,まず保存療法が行われる。可動域訓練,拘縮がある股関節周囲筋のマッサージ,内腹斜筋,腹横筋等の機能訓練を行い,体幹から下肢の機能改善を図る。これにより半数以上の症例が競技復帰可能となる。しかし,中には保存療法に抵抗する例も存在し,その場合は手術療法が行われる。わが国では,股関節鏡を用いたcamやpincerの切除や関節唇縫合術が主流となってきており,当院でも同様な治療方針で治療にあたっている。
【解説】
岡上裕介 高知大学整形外科