【質問者】
山下 賢 熊本大学大学院生命科学研究部脳神経内科学准教授
【筋ジストロフィーや代謝性ミオパチーでは,骨格筋より心筋の障害が顕著で早期治療を要する場合がある】
筋疾患において,心筋障害が問題となることは少なくありません。どのような筋疾患に心筋障害を合併しやすいかを知ることはきわめて重要です。中には,骨格筋障害よりも心筋障害が主症状となり,早期に治療を要して予後を決定する場合があります。心筋障害の存在が筋疾患の診断の大きな手掛かりになることもあります。一方で,確定診断がなされないまま,心筋障害を他の内科で経過観察されている患者も存在すると思われます。心筋障害に注意すべき筋疾患として,筋ジストロフィーや代謝性ミオパチー(Pompe病,Danon病)が挙げられます。
筋ジストロフィーは,骨格筋の壊死・再生を主病変とする進行性の筋力低下を呈する遺伝性筋疾患の総称です。
最も頻度の高いDuchenne型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)とその軽症型のBecker型筋ジストロフィー(Becker muscular dystrophy:BMD)は,細胞骨格蛋白であるジストロフィンをコードするジストロフィン遺伝子変異によるX連鎖劣性遺伝病です。DMDは5歳以下で下肢筋力低下を発症し,10歳までに車椅子生活,20歳前後で心不全や呼吸不全で死亡します。BMDは通常30歳頃に発症し,緩徐進行性です。いずれも拡張型心筋症を合併することがあり1),BMDでは心筋障害が先行することがあります。また,保因者である女性では,筋力低下はなく心筋症だけを呈することがあります。心筋障害にアンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)阻害薬やβ遮断薬が有効とされています。
このほかに,肢帯型や福山型先天性筋ジストロフィー,筋強直性ジストロフィーでも心筋障害をきたします。
残り1,130文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する