高齢者では生理機能低下等により抗菌薬の用法・用量に注意を払う必要がある
高齢者の市中肺炎では,細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別が困難であり,外来内服治療ではニューキノロン系薬も第一選択薬となる
高齢者の院内肺炎/医療・介護関連肺炎で,老衰や疾患末期の症例や,誤嚥性肺炎を繰り返す症例では個人の意思やQOLを考慮した治療・ケアを優先する
ニューキノロン系薬は,抗酸菌に対する抗菌活性を有し,結核感染診断を遅らせるリスクがあるため,結核感染の有無を慎重に判断する必要がある
今から100年以上前にWilliam Oslerは「肺炎は老人の友である」という言葉を残しているが,現代においても肺炎は高齢者が罹患しやすい感染症の代表である。しかし,患者背景や医療技術の変化を考慮すると,100年前の高齢者と現代の高齢者は大きく異なってきている。従来,高齢者の定義は65歳以上とされてきたが,2017年の推計で65歳以上の人口割合は27.7%と3割にせまるほど大幅に増加しており,個々の健康状態や基礎疾患もそれだけ多様化している。高齢者肺炎の診療もこの変化に対応する必要があり,最新の肺炎診療ガイドラインである「成人肺炎診療ガイドライン2017」1)では,特に高齢者肺炎に対する診療方針が,従来のガイドラインから大きくアップデートされている。
高齢者は加齢に伴って生理機能が低下しており,抗菌薬の用法・用量を決定する際や,治療効果判定,副作用チェックの際に注意が必要である。抗菌薬の薬物動態に影響を及ぼす因子としては,腎機能低下による腎排泄型抗菌薬の半減期延長,肝機能低下による肝臓での代謝低下が代表的であるが,消化管機能の低下による内服抗菌薬の吸収率低下,肺気腫や間質性肺炎等の器質的疾患における組織移行性の低下,脂肪組織の増加や筋肉量減少による脂溶性抗菌薬(ニューキノロン系薬,マクロライド系薬等)の半減期延長,血清アルブミンの低下による蛋白結合率が高い抗菌薬(セフトリアキソン,テイコプラニン等)の遊離薬物濃度増加等についても留意すべきである。
この中でも高齢者では特に腎機能への配慮は重要であり,Cockroft-Gaultの式によるクリアチニンクリアランス(creatinine clearance:Ccr)や推定糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)により腎機能を推定し,用法・用量を調節する。実際の用法・用量の調節は「成人肺炎診療ガイドライン2017」1)や日本腎臓病薬物療法学会の「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」2)等を参照に決定する。ポリペプチド系薬(バンコマイシン,テイコプラニン)やアミノグリコシド系薬(アミカシン,ゲンタマイシン)を投与する際は血中薬物濃度を測定しtherapeutic drug monitoring(TDM)に基づいて治療計画を立てる。