団塊の世代全員が後期高齢者の仲間入りをする2025年を目前に控え、地域包括ケアシステムの構築が進んでいる。成否を分けるポイントの1つは、地域においてリハビリテーションがシームレスに提供される環境の整備だ。特に自立支援につながる通所リハビリテーションの充実は重要な課題と言える。連載第2回は、東京23区では珍しい通所リハビリテーション機能を併設した新規開業クリニックの事例を紹介する。
リハビリテーションを巡っては、要介護者・要支援者に対する維持期・生活期の疾患別リハビリテーションについて、2019年3月末をもって医療保険からの給付が終了した。2006年度の診療報酬・介護報酬同時改定で打ち出された、標準的算定日数を超えて実施される“維持期・生活期リハ”の介護保険への移行が13年かけて完了。機能改善が見込める急性期・回復期のリハビリテーションは医療保険、機能の維持回復を図り日常生活の自立をサポートするリハビリテーションは介護保険、という明確な棲み分けがなされたことになる。
主な移行先は、介護保険を利用した①通所リハビリテーション、②訪問リハビリテーション、③デイサービス―の3つ。中でも通所リハビリテーションは、退院後に早期実施した場合のADL向上が認められているなどさらなる効果的・効率的な実施を促す要件が2018年度介護報酬改定で追加された。
通所リハビリテーションの事業所は増加傾向にあり、そのうち約半数を病院・診療所が占めている。課題となっているのは、リハビリテーションを実施できる医療機関(脳血管疾患または運動器疾患リハビリテーション料を算定)のうち、実際に実施している施設が病院で38%、診療所ではわずか26%にとどまっている点。ニーズが増大していく中で、“リハビリ難民”が続出してしまう可能性がある。
東京都北区にある「つかさ内科」はこうした状況を踏まえ、外来に通所リハビリテーションの機能を併設したクリニックとして、5月1日に保険診療をスタートさせた。院長の稲島司さん(写真)は、通所リハビリテーションを併設した狙いについてこう語る。
「開業する直前の数年は大学病院の地域連携部門にいました。時折『通えるリハビリがやりたい』という声があったのですが、都内ではなかなかマッチングできず、重要なアンメットニーズであると感じていました。現状、回復期リハ病棟から退院した患者さんは、動ける人でも訪問リハを受けざるを得ないケースが多く、それでは病院にいる状態とあまり変わりがありません。家に住み、外出して人と交流する、という人間にとって普通の生活をできる限り送ることが大切なのです。かかりつけの医療機関がリハビリも提供することができれば、患者さんの利便性・満足度も高まり、ADLの向上や大きな安心につながると考えています」
写真①、②はつかさ内科のリハビリテーション施設。スペースは外来部分と同じ規模の約30坪を確保した。トランポリンやサンドバッグ、卓球台、肋木などの器具が揃っている。
「リハビリで大切なのは楽しんでもらうことです。そのためエルゴメーターを一人で黙々と漕ぐようなリハビリではなく、対面でのリハビリを提供します。考えながら取り組むことも重要で、エクササイズでは国立長寿医療研究センターが開発した、運動と計算やしりとりなどの認知機能を組み合わせた『コグニサイズ』を行います。コグニサイズは認知機能の低下を抑制する効果が実証されています。機器やマシンでもある程度はできますが、やはり人対人で行うほうが効果的かつ楽しめると思います。時には間違えて笑ったり悔しがったり、コミュニケーションしながらリハビリに取り組めるよう心がけています」(稲島さん)
つかさ内科の外来では、稲島さんの循環器専門医としてのキャリアを生かし、循環器内科の専門診療に力を入れ、“血管と心臓のメンテナンス”を重視している。
「脳卒中や心筋梗塞は予防が可能です。疾病発症前の現役時代から通院してもらうことが重要という観点から、最低年2回は血圧やコレステロール、糖尿病などのチェック、さらに心エコー・頸動脈エコーなどを行い、リスクをコントロールしていきます。歯科医のメンテナンスを定期的に受診するイメージです」
また稲島さんは、検査の画像や結果をすべて患者・家族と供覧する診療スタイルを取り、疾患や症状に関する理解を深めていくことを重視している。
「例えば頸動脈エコーの画像を見てプラークの有無を一緒に確認してもらうのと、医師からの口頭説明のみとでは、治療に対するアドヒアランスに大きな差が出ます。皆さん自分の身体のことはもっと知りたいはず。『あのクリニックに行けば丁寧にいろいろと教えてもらえる』となれば受診の動機づけにもなるでしょう。通所リハも同じですが、クリニックにエンターテインメント性を持たせることは大切だと考えています」
地域のかかりつけ医療機関としてスタートしたばかりの同院だが、外来患者は開院当日から40人を超え、その後も集患は順調だという。開院前の内覧会では、通所リハビリテーションのスペースを活用し、三味線演奏会やオルガン教室、エビデンスに基づいた食習慣など健康関連の著作を持つ稲島さんによる講演会を開催。子ども向けのドクター体験では、聴診器や血圧計、エコーが使える機会を設けるなど、地域とのコミュニケーションを積極的に図っている。
「これからも定期的に地域の方が参加できるような催しを実施していきます。『こんなことでも相談して大丈夫かな』という些細なことでも気軽に相談しに来てもらえるような、住民に身近なクリニックを目指していきたいですね」(稲島さん)