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小関三英(7)[連載小説「群星光芒」160]

No.4747 (2015年04月18日発行) P.70

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-21

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  • やがて「尚歯会」は「経世済民」を旗印に天下の情勢を論じ、飢饉対策や西洋事情の研究に力を注ぐようになりました。すると渡辺崋山様の周りには西洋諸国の侵略を懸念する錚々たる幕臣が集まってきました。川路聖謨様、羽倉外記様、江川太郎左衛門殿といった開明派の俊英です。

    崋山様は誠実なお人柄の方で、大勢の人に好かれました。蘭学嫌いにかけては筋金入りの目付鳥居耀蔵でさえ、「あれは嫌味のない上等な侍で絵も並外れて上手い。考えさえまっとうならば、なにも憎みはしないのだが」といっていたそうです。

    しかし耀蔵は社中の隆盛ぶりを危ぶみました。耀蔵は大学頭(現・文部科学大臣相当)林述斎の3男に生まれ部屋住みの厄介者だったのですが、20代半ばに運よく2500石取りの旗本鳥居家の婿養子になりました。天保9(1838)年に目付に昇進して幕臣の監察に当たります。このとき洋式海防を唱える江川太郎左衛門殿らが崋山様と親しく交わるのを知って「尚歯会」にいっそう警戒心を強めました。

    耀蔵にとって蘭学かぶれほど世の中を乱し、御政道の邪魔になるものはない、というのが渝らざる信念でした。

    「蛮学輩(洋学者)はオランダ正月と称する毛唐のまねをして悦に入っている。そればかりか神州の尊き歴史と伝統を軽蔑して人心を萎縮惑乱させ、いたずらに不安と危惧の念をあおりたてる。世界地図を広げて怪しげな西洋崇拝譚を語り合い、聞きかじりの新奇の説を広めて世人を惑わす山師どもである。なかんずく百姓町民の苦しみを救うと称して催眠にかける頭目の渡辺崋山を野放しにすれば我邦は義理も恩義も知らぬ紅毛人に乗っ取られてしまう。わしは一身を擲って我邦を禽獣の国と化するのを阻止せねばならん」

    旗本8万騎のうちでもこれほど御政道に忠実で剛毅な幕吏はめったにおるまいと噂されました。けれども狭量で執念深く、人一倍猜疑心の強い持主で、耀蔵に狙われたら最後どんな目に遭うやらわかりません。町民たちは「蝮の耀蔵」と呼んで毛嫌いしていました。

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