化膿性脊椎炎の菌の到達経路としては,血行性の頻度が高い
血行性感染の場合,先行感染や基礎疾患を有しているものが多い
発生部位は腰椎が最も頻度が高い
細菌性心内膜炎との合併例に注意が必要である
血行感染の機序として,動脈系の関与,静脈系の関与の2つの説が存在する
小児と成人では,椎体周囲の血管の解剖学的特徴から感染が成立する部位が異なる
化膿性脊椎炎では早期から椎間板が破壊されるため,単純X線像では椎間腔の狭小化として現れる
化膿性脊椎炎の原因として菌が脊椎に到達する経路には,血行性感染,近接した感染巣からの直達浸潤,検査や手術による直達経路の3つが考えられている。その中でも血行性感染が最も頻度が高いとされている。
血行性感染のもととなる先行感染としては,中耳炎,咽頭炎,慢性副鼻腔炎,齲歯,呼吸器感染症,皮膚感染症,虫垂炎,胆囊炎,尿路感染症などの感染巣が挙げられる。
また,外傷や基礎疾患の合併が化膿性脊椎炎の誘因とされており,基礎疾患としては悪性腫瘍,糖尿病,慢性腎不全,肝硬変,ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染や低栄養,薬物乱用,長期間にわたるステロイド使用といったものが多くの研究で報告されている。佐藤ら1)の報告によると,98例の化膿性脊椎炎患者の基礎疾患について分析した結果,糖尿病34%,悪性腫瘍8%,肝硬変3%,慢性腎不全2%であったとされている。
頸椎化膿性脊椎炎の場合,直達感染経路としては星状神経節ブロックや椎間板造影による感染の症例が報告されており,Fraserら2)によると,椎間板造影を施行した432例において椎間板炎の発生率は,外套のない針で施行した場合0.7%,外套付きの針で施行した際には2.7%であった。さらに1947年以降に125例の椎間板切除,椎弓切除術後の化膿性脊椎炎が報告されており,発生率は1.6%であったとFernandら3)は文献レビューで述べている。また,金田ら4)によると,5年間で椎間板ヘルニアの手術後に20例の椎間板炎が発生し,発生率は2%で再手術では5.7%と高くなると報告された。
近接した感染巣からの直達浸潤では,咽頭壁内への異物刺入,乱暴な気管内挿管などがあり,頸部の蜂窩織炎から頸椎化膿性脊椎炎へと波及した症例の報告もみられる。
馬場ら5)は90例の化膿性脊椎炎の経験において,血行性感染が血液培養等で証明される比率は19%程度で,周囲臓器からの感染進展または術後感染の割合は7例(8%)であったと報告している。
また,発生部位に関しては諸家の報告で腰椎,胸椎,頸椎の順に発生頻度が多いとされており,佐藤ら1)は腰椎66%,胸椎14%,胸腰椎11%,頸椎9%と報告している。また,海外の報告でも腰椎(40~50%),胸椎(35%),頸椎(3~20%)と発生頻度に変わりはない。腰椎化膿性脊椎炎が泌尿生殖器,直腸肛門の感染や手術のあとに発生しやすいことも報告されているが,後に述べるように,化膿性脊椎炎の菌の到達経路の中で,血管を介した機序のうち静脈系の関与を強く疑う研究があり,腰椎化膿性脊椎炎の発生頻度が高いことの理由のひとつと考えられる。