鼻中隔は骨と軟骨で構成されており,身体の発達段階で軟骨の成長が骨よりも早いために歪を生じることが鼻中隔の弯曲を生じる主な原因である1)。鼻中隔の弯曲は身体の成長とともに顕著となるため,新生児では数%,学童期で約20%,成人では80~90%に認められる。生理的とも言える成長に伴う弯曲のほかに,外傷,鼻中隔の炎症や感染なども原因となる。小児で鼻中隔の弯曲が問題となることは稀である。また,ほとんどの成人に鼻中隔の弯曲があるが,鼻閉などの症状があるのは約10%である。鼻中隔の弯曲があり,さらに鼻閉などの症状を伴う場合を鼻中隔弯曲症と呼ぶ。
最も一般的な症状は鼻閉である。弯曲の程度と自覚的な鼻閉感の強さは必ずしも一致しない。弯曲が強くても鼻閉の訴えが弱いこともあり,逆に,弯曲が弱くても鼻閉の訴えが強いことがある。また,鼻腔の狭い側(弯曲の凸側)に鼻閉を生じやすいと考えがちであるが,対側(凹側)の鼻閉を訴えることもある。これは,総鼻腔抵抗に対するnasal cycle(左右の鼻粘膜が周期的に収縮と腫脹を繰り返す生理的現象)の影響が鼻腔の広い側に強く現れるため,鼻腔の広い側に鼻粘膜の腫脹時の鼻閉感を生じやすいことによると考えられている〔奇異性鼻閉(paradoxical nasal obstruction)〕。鼻閉のほかに,鼻出血,鼻粘膜接触点頭痛,ostiomeatal complexの狭小化による副鼻腔炎などの原因となる。
①多くの鼻副鼻腔疾患が鼻閉の原因となるため,まず,鼻副鼻腔疾患の合併の有無を調べる必要がある。鼻中隔の弯曲と鼻副鼻腔疾患が,それぞれ,患者の訴える鼻閉にどの程度関与しているか評価しなければならない。
②鼻中隔の弯曲の部位と程度は,主に前鼻鏡検査,鼻腔内視鏡検査,CT検査で評価する。骨・軟骨の弯曲だけではなく,鼻中隔粘膜や下鼻甲介粘膜などの軟部組織の腫脹の評価も必要である。そのためには,処置をしていない状態の所見と血管収縮薬(ボスミン®,ナシビン®など)で粘膜を収縮させた状態の所見を比較しなければならない。
注意:中鼻甲介前方の鼻中隔軟部組織の肥厚部(鼻中隔結節,nasal septal swell body)を鼻中隔の弯曲と間違えることがある。
③鼻腔通気度検査:血管収縮薬による処置前後に鼻腔抵抗を測定することで,軟部組織と骨・軟骨の鼻腔通気性に与える影響を客観的に数値として評価できる。鼻中隔矯正術の適応を決めるのに有用である。
④Cottle test:安静呼吸下で鼻翼外側の頰部皮膚を外側に牽引することで鼻閉が軽減するかどうかを調べる。鼻閉が軽減した場合は,鼻中隔の前尾側端(caudal end)を含む鼻弁部(nasal valve)の狭窄が疑われる。
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