心不全症状を有する左室機能低下症例では心臓再同期療法(CRT)の植込み適応となる場合がある
CRT植込み後であっても,左室駆出率(LVEF)の改善に乏しい症例が存在する
近年,左室リードの改良が進み,様々な形状のリードや4極リードなどが出現している
デバイス本体の機能として,左室リード2点をペーシング可能なものや様々な機能が出現している
近年,心不全は増加傾向にあり,その原因として食生活の欧米化や高齢化などが挙げられる。心不全は,心臓の収縮機能を高める強心薬や血管を広げる血管拡張薬などの薬剤を使う薬物治療,また人工心臓移植などの外科的治療が主流であった。
これに対して1994年,両室ペーシングというペースメーカを応用した新しい治療法が出現し,この治療法は心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy:CRT)と呼ばれる。これまでに多くの大規模試験でその有用性が認められ,わが国では2004年に保険が適用となった。適応基準としては,中等度または重度の心不全〔NYHA(New York Heart Association)心機能分類Ⅲ度またはⅣ度〕,QRS波幅120ms以上,左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)35%以下,薬物治療抵抗性であることである。CRTは,致死的不整脈である心室頻拍(ventricular tachycardia:VT)や心室細動(ventricular fibrillation:VF)の治療が可能な除細動機能のある両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT with defibrillator:CRT-D)と,除細動機能のない心臓再同期治療ペースメーカ(CRT pacemaker:CRT-P)に分類される。
CRTは心不全患者の心機能を改善し,運動耐容能を向上させ,慢性期効果として心筋リモデリングを改善し,生存率を改善させることが報告されている。しかし,CRTでも約30~40%の症例で駆出率の改善が5%以下にとどまるnon responderが存在する。また,super responder(駆出率20%以上の改善)の5年生存率82%と比較して,non responderでは48%と非常に予後不良であると報告されている1)。
このようなnon responderの原因のひとつとして,左室リードを留置する冠静脈洞の解剖学的な要因が挙げられる。解剖学的に良好な場所を走行する血管がないことや,横隔神経刺激の問題,良好な閾値が得られないこと,などが要因として挙げられる。ターゲットとしたい血管が細い場合や蛇行が強い場合は,リードの留置が困難となることもあり,これまで血管選択性の高いものなどにリードの改良もされてきた。以前,使用されていた2極リードから4極リードが登場し,4つの電極からペーシング部位を選択することが可能となり,植込み後の横隔神経刺激の回避や閾値上昇時の対応も可能となってきた。しかし,CRT植込み後症例の中には4極リードを用い,最適な電極からペーシング刺激を行っても治療の効果が認められないnon responderが存在する。このような症例を植込み前に特定することは困難であり,CRT効果を事前に予測することもできない。
non responderに対し,様々な研究がなされておりCRTデバイスには種々の機能が存在する。以下にその機能をいくつか紹介する。