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【書評】エビデンスと現場の狭間の良き道しるべ『私の治療2019-20年度版』

No.4975 (2019年08月31日発行) P.34

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長)

登録日: 2019-08-28

最終更新日: 2019-08-28

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昨今、専門学会が策定したガイドライン、エビデンスをわかりやすくまとめたオンライン学習ツールなど、リアルタイムで医学知識を取り出すためのメディアは充実してきたと実感する。その一方で、ハリソンなどのいわゆる成書は信頼度の高い情報基盤としての価値もあるだろう。本書はそのどちらにも属さない、いわば第3のカテゴリーとなる医学情報といって良い。

本書はエビデンスに基づきつつも、あくまでもその分野のエキスパートがその領域に関する見解を明瞭かつ簡潔に記したテキストである。【私の治療方針・処方の組み立て方】がその中核であり、最大の特徴である。たとえば、「過換気症候群」では、「本疾患と確実に診断できていれば、治療の緊急性はない。除外診断を確実に行うことが重要である。」という最初のメッセージがわかりやすい。その上で、呼吸法の指導、三環系抗不安薬、紙袋再呼吸法について簡潔な説明が続く。また、【治療の実際】はそうした一般論をさらに詳しく重症度別に記し、優先度を「一手目、二手目、三手目」と示すことで、多忙な診療の中で迅速にアプローチするための道しるべとなっている。

もう一つの特徴は【非典型例への対応】【高齢者への対応】である。臨床現場で見逃してはいけない非典型例こそが熟練した臨床家の腕の見せ所であり、多疾患合併や加齢性変化の影響への配慮が必要な高齢者への適応も超高齢化社会の日本の医療では必須項目である。こうした点は冒頭に記した学習ツールではカバーが不十分なことも多く、実地医家にとっては大変有用であろう。

エビデンスを順守すると記載しにくいエキスパートオピニオンを含む診療指針を、あえて「私の」という枕詞をつけることで可能にした本書は、エビデンスと現場の狭間にある多くの実地医家にとって診察室における良い友になるだろう。

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