外耳道炎は,外耳道に生じた炎症性疾患の総称である。軟骨部外耳道の毛包や皮脂腺,耳垢腺に細菌感染が生じて起こる急性限局性外耳道炎(耳癤),慢性中耳炎など中耳の感染が骨部外耳道に及んで生じるびまん性外耳道炎,外耳道の局所感染防御能の低下による外耳道真菌症のほか,悪性外耳道炎や耳介帯状疱疹,ランゲルハンス組織球症,近年増加傾向にあるビスホスホネート製剤による外耳道真珠腫などの特殊な病態の存在に留意する。
主な症状は,耳痛や耳瘙痒感である。外耳道が閉塞したり中耳への炎症波及がなければ,聴力低下は起こらない。耳介牽引痛,耳珠や耳介付着部の圧痛は外耳道炎に特徴的な所見である。
まずは,外耳道炎の原因を探る。耳かき癖といった生活習慣や,アレルギー性鼻炎や中耳炎,糖尿病や副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬,ビスホスホネート製剤の長期使用を要する疾患の有無について問診を行った後,顕微鏡下に外耳道,鼓膜の視診を行う。炎症の主座は軟骨部なのか骨部なのか,中耳炎はあるか,耳漏や落屑,真菌塊の有無とその性状を観察し,炎症の原因を推定する。耳漏や落屑,真菌塊がある場合は,細菌培養検査を提出する。
基本的な治療方針は,①局所処置,②原因に対する薬物治療,③対症的治療,④生活指導,が挙げられる。
局所処置は,顕微鏡下に耳漏や落屑,真菌塊などを丁寧に除去し,適宜生理食塩水による洗浄を行う。洗浄後の余剰洗浄液はきれいに吸引除去する。明らかな皮下膿瘍を形成している急性限局性外耳道炎では,穿刺による排膿を行う。外耳道の腫脹が高度な場合は,抗菌薬含有軟膏によるGottsteinタンポンの数日間の挿入も検討する。ステロイド・抗菌薬含有軟膏の塗布も有用であるが,鼓膜穿孔を有する場合の内耳毒性や漫然とした使用による二次性の真菌症の発症に留意する。びまん性外耳道炎に対しては,ブロー氏液の塗布も有用である。真菌症の場合は,耳漏や真菌塊の除去と洗浄をなるべく頻回に行い,ラミシール®クリームなどの抗真菌薬を塗布する。
原因に対する治療としては,点耳抗菌薬の局所投与を第一選択とする。オフロキサシン(OFLX)点耳薬は1/100の投与量で,1/100の血清中濃度と100倍の耳漏中濃度が得られ,安全性と有効性を併せ持つ。セフメノキシム(CMX)やホスホマイシン(FOM)も聴器毒性を有さず血中薬剤移行はわずかで,広い抗菌作用を持つ有効な薬剤であるが,ともに粉末を溶解液で溶解することが必要で,冷所保存,7日以内の使用と定められている。薬剤調整や温度の調整が必要であることから,高齢者などの視力や指先の巧緻性,認知機能が低下している症例への投与は留意が必要である。高度な炎症を有する症例では,点耳抗菌薬とステロイド点耳薬の併用を行う。ステロイドの点耳は感染の増悪や真菌感染のリスクも伴うことから,7日を目安に投与し,慎重な経過観察を要する。
また,局所の発赤腫脹や疼痛が強い場合は抗菌薬の全身投与を行う。外耳道炎の起炎菌の多くはブドウ球菌であることから,アモキシシリン(AMPC)などのペニシリン系あるいはセファレキシン(CEX)などの第1世代経口抗菌薬を使用し,反応が悪い場合は細菌培養結果により,感受性を持った薬剤へのデスカレーションを行う。
対症療法としては,痛みに対しての消炎鎮痛薬,かゆみに対する抗アレルギー薬の処方が有用である。
日常生活指導としては,耳かき癖の修正が重要である。外耳道には自浄作用があり,また,耳垢には細菌や真菌の繁殖抑制作用がある。耳掃除には耳かきは用いず,2週に1度程度綿棒で外耳道入口部を清拭する程度でよいことを説明する。
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