日本サルコペニア・フレイル学会は9~10日、新潟で第6回大会を開催した。9日の特別講演ではアジアサルコペニアワーキンググループで議長を務めた荒井秀典氏(国立長寿医療研究センター理事長)がサルコペニア診断基準2019を公表した(下掲)。骨格筋量や歩行速度を測定せずにサルコペニアを診断できる基準を新たに作成。確定診断に用いる握力や歩行速度のカットオフ値は、アジア人のエビデンスをもとに改訂した。
これまでの診断基準は14年版。5年ごとの見直しを予定していたため改訂に至ったという。新たな基準では、骨格筋量の測定装置がないかかりつけ医や地域の医療現場での診断を可能にするための簡便なアルゴリズムを作成。筋力や身体機能のどちらかで基準に満たない場合は、サルコペニア(可能性)と診断し、栄養療法や運動療法の介入を始めるよう求めている。近くに専門施設がある場合は紹介し、確定診断を受けることを推奨した。
筋力は握力で測定する。カットオフ値は男性28kg未満、女性18kg未満。身体機能の測定には5回椅子立ち上がりテストを用いる。カットオフ値は12秒以上。症例発見のきっかけとして、下腿周囲長(カットオフ値:男性34cm未満、女性33cm未満)や質問票であるSARC-F、2つを組み合わせたSARC-Calfのいずれかでスクリーニングすることを提唱した。
確定診断は、骨格筋量の測定が可能な病院や臨床研究施設で行う。14年版と同様、「筋力」「身体機能」「骨格筋量」から診断するが、男性の握力のカットオフ値を28kg未満とし、これまでの診断基準より2kg引き上げた。身体機能の測定では、6メートル歩行のカットオフ値を0.8m/秒未満から1.0m/秒未満に改訂したほか、新たな方法として5回椅子立ち上がりテストと、バランステスト、歩行テスト、椅子立ち上がりテストで構成する簡易身体機能バッテリー(SPPB)を追加。3つのうちから臨床現場で測定しやすい方法を選択することが可能になった。荒井氏は講演で、「下腿周囲長、SARC-F、SARC-Calfに加えて、糖尿病や心不全など慢性疾患がある患者にはサルコペニアの診断を勧めてほしい」と発言した。
厚生労働省は、75歳以上を対象に実施している後期高齢者医療制度の健診で、20年度からフレイルの把握に取り組むこととしている。これについて荒井氏は、「この健診の中でサルコペニアのスクリーニングを行うことが大切だ」との考えを表明。最終的な決定ではないとした上で、「下腿周囲長や握力の測定によって、リスクが高い方をみつけ、積極的に介入してほしい」と述べ、厚労省と調整を図る姿勢を見せた。サルコペニアとフレイルの診断基準では男性の握力のカットオフ値が異なることから、「これを機に統一したい」との意向を示した。
荒井氏によると、新たな診断基準によるガイドラインは遅くとも20年1月には公表する予定。その後、同年中に全面改訂版を発行したいとした。また、欧米と共通の診断基準を策定する方針も明言した。「来年3月にも議論をスタートし、2~3年以内に議論が落ち着く可能性がある」と見通しを示した。