人間は,「事実(fact)」「感情(feelings/emotion)」「考え(idea/perception)」で世界をとらえている。「事実質問」は,why(なぜ)やhow(どうして)を使わず,what(何),when(いつ),who(誰)などを用いる質問である
事実質問を活用した「メタファシリテーション」は,患者が自分自身の病気を悪化させている生活習慣に気づき,患者が自らの意志で行動変容を起こすようにサポートする技術である。結果として,外来診療の時間をかえってコンパクトかつスムーズにさせ,臨床医の生活指導に対する不安やイライラを軽減させる
以下の質問にお答え頂けるだろうか。
「もっと早く寝て下さい」
「昼食含め1日3食しっかりと時間をとって,よく噛んで食べるようにしましょう」
「1日30分は運動して下さい」
このように言われて,明日から実際に実行する(あるいは,「できる」)ことはきわめて稀だろう。それでは,エビデンスに基づいた詳細な理由の説明があればいかがだろうか? 実は,エビデンスや事実を用いて詳細に「説明」しても,行動変容を促すことが難しいことは心理学の分野ではよく知られている1)。私達が日常の外来診療,入院時の退院指導,地域における保健活動などで行っている生活指導は「説得(納得していない相手に対して正論や道理を説いて行動変容を要求する方法)」かもしれない。一方で,「説得」のように事実を相手につきつけるトップダウンの方法ではなく,「対話(相手の事実を引き出すことで,生活習慣のどの点をどのように変えればよいかを相手に気づかせる方法)」によるボトムアップの方法もある(図1)。
2018年,2019年と日本プライマリ・ケア連合学会2)3)において,対話を用いた行動変容を促す手法のひとつである「メタファシリテーション」(認定NPO法人ムラのミライが途上国の現場で開発した「事実質問」をもとにした手法)4)〜6)を紹介したところ,シンプルな原理と訓練方法であるとして,短時間で外来診療でも実行可能という多忙なわが国の医療現場にも即した手法として,大きな反響を頂いた。
今回は,読者の方々にもなじみ深い一般内科外来を例にして,整形内科的生活指導にも活用できる本手法の概要を紹介する。