新型コロナウイルス(2019-nCoV)の情報は、SNSを通じて瞬く間に世界に拡散された。2002年からの重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行時にはこのような現象はなかった。SNSによって恐怖が煽られるようになったのは、2014年のエボラウイルス感染症流行の頃だと思う。
恐怖の扇動で得をする人間がいるとは思えないのだが、たとえば「武漢から発熱症状のある旅客が、関西国際空港の検疫検査を振り切って逃げた」などのデマが今回拡散され、ニュースになった。また、今回の騒動とは関係のない中国の映像を流してハッシュタグで関連づけた悪質なデマもあった。問題になっているパンデミックは、新型ウイルスではなくデマツイートではないかと錯覚するくらいだ。我々医療従事者は、こうした不適切な情報のスーパースプレッダーになってはいけない。
今回の感染症、確かに公衆衛生学的には注視する必要はあるが、それを差し引いてもマスメディアは騒ぎすぎではないだろうか。各局トップニュースで取り扱い、他国の感染者や死者が増えるたびに速報ニュースを流していく。エボラウイルス感染症の時と同じく、おそらくブームが過ぎれば彼らは報道をピタリとやめる。
サージカルマスクだけでなく、N95マスクが一般人に飛ぶように売れる事態は、現在の過熱報道によるところが大きい。重要なのは、正しいだけでなく“適温”の情報を流すことではないだろうか。
倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)[医療SNS][新型コロナウイルス]