近年,医療および医療を取り巻く環境が激変する中で,先進諸国における過剰な医療的介入を憂える声が良心的な医療人の間に拡がっている。中でも米国内科専門医認定機構財団(American Board of Internal Medicine Foundation:以下,ABIM財団)の主導で2012年に発足したChoosing Wiselyキャンペーンが注目を浴びている。
このキャンペーンは,米国内科学会(American College of Physicians:ACP),ABIM財団,欧州内科連合(European Federation of Internal Medicine)の3団体によって2002年に欧米で同時発表された「新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章(Medical Professionalism in the New Millennium:A Physician Charter)」で示された理念が基本となっている。発足にあたって全米の臨床系専門学会に対して“再考すべき(無駄な)医療行為”を5つずつリストアップすることを求めたところ,大部分の専門学会が根拠文献とともにこれに応じたことで大きな反響を呼んだ。現在,全米80以上の学会から約550のリストが提供され,Choosing Wiselyキャンペーンのホームページ(図1)上に公開されていて,無料で閲覧,ダウンロードできる。図2に,例として米国家庭医療学会のリストを示した。
本連載では,世界的な拡がりを見せているChoosing Wiselyキャンペーンの「5つのリスト」のうち,わが国の臨床現場でも“考え直して”みたい項目を順次選び,根拠文献とともに紹介する。
忙しい臨床現場では,私たちは知らず知らずのうちに,慣習化した“いつものやり方”を踏襲していることが多いのではなかろうか。いったん立ち止まり,視角を変えて振り返ると,当たり前が当たり前でないことに気づく場合も少なくない。
一方,医療を取り巻く環境が異なるわが国では,必ずしも米国の「リスト」がそのまま当てはまるわけではない。
「リスト」の紹介とともに,「リスト」に示されている推奨の精神を私たちの日常診療に生かすには「リスト」の内容についてどう考え,どう工夫すればよいかについてもコメントを付すようにした。
Choosing Wiselyキャンペーンのエッセンスは,一言で要約すると,「choosing wisely(賢明に選択する)」を合言葉に,患者にとって有益であり,弊害が最も少ない医療について“医療職と患者との対話を促進し”,良好な医療コミュニケーションを通じて,(診療上の)意思決定を共有すること(Shared decision making:SDM)である。現在,このキャンペーンはChoosing Wisely Internationalとして,国際規模で展開されているが,その推進にあたっては各国とも表1に示した「6大原則」に沿うことが求められている。
また,冒頭に紹介したように,このキャンペーンは,医療専門職である医師個人が,また,組織としての医療専門職能団体が,社会に対して責任ある立場を示す(being accountable)こと,すなわち,プロフェッショナリズムの原点に立脚して推進されていることを強調しておきたい。