「この絵には何が描かれていますか?」(図1)と聞かれたら,あなたはどのように説明しますか? あなたの視線はどのように動きましたか?
一通りみたら,それでは次のような問いかけに答えてみましょう。
①この作品の中では何が起こっているのでしょうか?
②この作品のどこからそういうふうに思ったのですか?
③他にもっと発見がありますか?
本稿では,1980年代にニューヨーク近代美術館で開発された世界的に有名なアート鑑賞教育プログラムであるヴィジュアル・シンキング・ストラテジー(visual thinking strategies:VTS)と国内で体験した「対話型鑑賞」の考え方をベースに,アート鑑賞を通じて患者さんに対しての観察力,診断力,共感力,コミュニケーション力などを鍛えるためにアレンジし,医学教育への活用の可能性を探っていきます。
日本ではまだまだ知名度が低いですが,欧米では,このアート教育と医学教育を結びつけるという教育法を取り入れている医科大学は,ハーバード大学医学部をはじめとして,かなりの数に上ります。それらのメリットやカリキュラムをまとめたレビューも報告されています。何より,美しい芸術を楽しみながらトレーニングでき,また,患者さんが相手ではないためリスクなく繰り返し訓練できるところが臨床教育として優れている点です。
患者さんに対する観察力,診断力,共感力,コミュニケーション力などのスキルは,医学生だけでなく,卒業後も医師として鍛え続けていく必要があります。対話型のアート鑑賞はそのためにも非常に役立つものとなっています。
本稿でご紹介するのは次の通りです。
1 アートと医学の意外な関係
(1)リベラルアーツと医学
(2)アート鑑賞と医学教育
2 アート鑑賞の臨床への活かし方
(3)アートを観察する力が臨床力アップにつながる
(4)臨床での観察力/診断力に活かす
(5)共感力を高め,患者に歩み寄る
(6)組織運営力を高める/燃え尽きないために
(7)豊かな文化的感受性を身につける
3 やってみよう!対話型アート鑑賞
(8)対話型アート鑑賞について
(9)なぜ対話型か? 一人では生まれないそのメリットは?
(10)どこからそう思いましたか? ─ファシリテーション基本の「き」
(11)実践! 対話型アート鑑賞の実際の進め方