大量腹水患者に対する有効な症状緩和には全量ドレナージが必須。
安全で効果的なCARTには腹水処理の理にかなった全量・迅速処理可能なシステム(KM-CARTシステム)が必要。
安全な全量ドレナージには,患者の循環動態に合わせた適切な循環管理とドレナージ技術(KM-CART技術)が必要。
癌性腹膜炎や肝硬変に伴う大量腹水は,強い腹部膨満感や呼吸苦をきたして患者の全身状態を著しく悪化させ,治療の中止につながるだけでなく,患者の生きる希望も奪ってしまう。しかも,オピオイドなどの薬物療法では症状緩和が困難である。腹水ドレナージの繰り返しでは,患者は急速に栄養・循環状態の悪化をきたすために,多くの医療者は“最後の手段”と考えているのが現状である。
難治性腹水治療法としては,日本独自の腹水濾過濃縮再静注法(cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy:CART)があるが,透析の技術を転用して開発されたために,システムが腹水の濾過濃縮の理にかなっていない。それゆえに臨床現場では“CARTは副作用が強く,効果に乏しい治療”として認識されており,国内でも普及していない。したがって,利尿薬に反応しない大量腹水は“もう治療手段がない”とされ,多くの“腹水難民”を生み出している。
筆者は,2008年に従来型のCARTシステムを改良したKM-CART(Keisuke Matsusaki-CART)システムと,安全な全量ドレナージを可能にする循環管理技術:KM-CART技術を考案し,難治性腹水に対して1万例以上(最大27.8L)に施行している。
本稿ではKM-CART(KM-CARTシステム+KM-CART技術)の特徴とその効果について述べる。
CARTは1975年に外科医の山崎1)によって発案され,1977年にポンプによる濾過濃縮システムが開発された。1981年には難治性腹水に対して手術(K-635)として保険承認されているが,その後は膜素材の変更のみで現在に至っている。
現在,臨床現場の大部分を占める従来型CARTシステムの問題点を以下に挙げる。
①高価な専用ポンプ装置を必要とし,濾過濃縮処理に時間がかかる。
②癌性腹水では,癌細胞,血球などの細胞成分や粘液,フィブリンなどにより2~3Lで濾過膜閉塞をきたして以後の濾過ができない。特に粘液の多い卵巣癌症例では1L前後で処理限界になることもある。
③ローラーポンプによる過度な加圧濾過操作による細胞の挫滅やサイトカイン,エンドトキシン,粘液成分などの濾過濃縮,さらには白血球に機械的ストレスが加わった結果生じるインターロイキンにより,高熱やショックなどの副作用の原因となる。
以上より,細胞成分や粘液などの膜閉塞物質をほとんど含まない少量(3~4L前後)の肝性腹水が主な治療対象となったが,少量の腹水処理では回収蛋白量が少なく,治療効果に乏しい。さらに強制圧による濾過操作によって高熱やショック症状を引き起こすため,医療現場において“副作用が強く,効果に乏しい治療”と認識されて普及していない。
患者の病態によって様々な性状を示す腹水に対して,理にかなっていないシステムと画一的な濾過方法により,本来の効果が十分に発揮されていないのがCARTの現状である。
筆者は,心臓外科医時代の人工心肺装置ならびに濾過膜の研究2)と体外循環の経験,病理医,消化器外科医時代の癌研究や癌治療の経験を生かして,大量の癌性腹水も短時間で処理可能で,装置,操作ともに簡便なKM-CARTシステム3)4)を2008年に考案し,クラレメディカル社から承認,販売された。
KM-CARTシステムにおける主な改良点は,以下の4点である。
①一次膜である濾過膜を内圧濾過方式(中空糸の内腔から外腔に腹水を濾過:透析と同じ方式)から外圧濾過方式(中空糸の外腔から内腔に腹水を濾過)に変更。
②腹水に強制圧をかけて無理な濾過を行わないように,濾過膜の後方から吸引装置による定陰圧濾過方式を採用。
③医療施設ならどこにでもある汎用のポンプと吸引装置が利用可能。
④濾過膜の閉塞を簡単,迅速に回復させる濾過膜逆洗浄機能を追加。
これらの改良により,装置,回路ともにシンプルになり,操作も簡単で,どこの医療機関でも施行可能になった。また,簡単な濾過膜逆洗浄操作により大量の癌性腹水も無駄にすることなく,短時間で全量の処理が可能である。ローラーポンプでしごいて強制的に濾過膜内に押し込まないため腹水への機械的ストレスがなくなり,発熱などの副作用も軽減された(図1,2)。
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