ここ数日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大対策に追われている。在宅というセッティングでの厳格な感染管理の難しさを感じていたまさにその時、この新刊を手にすることになった。
在宅高齢者は脆弱だ。感染症を繰り返し、感染症で亡くなる人が多い。
だからこそ私は、在宅医療の使命の1つは感染症の予防、つまり発症を予防すること(一次予防)、早期発見・早期治療で入院を減らすこと(二次予防)、入院を選択する場合は、機能障害が顕在化する前に退院させること(三次予防)にあると考えている。
しかし感染症の予防には限界がある。また症状が非典型的であったり、認知症などで訴えのない人もおり、早期発見は容易ではない。治療にはアドヒアランスから自ずと制約が生じる。多剤耐性菌に対しても在宅ではグリーンゾーンとレッドゾーンを明確に区分できない。そして人生の最終段階で、どこまで感染症として治療すべきか、臨床倫理的な状況判断、意思決定支援が求められる。
つまり感染治療学の教科書通りにはいかないのが、在宅での感染症治療なのだ。
多くの仲間たちが、日々悩みながら在宅での感染症治療に取り組んでいることと思う。
本書は、そんなモヤモヤに対する明確なガイダンスとなっている。
エビデンスに基づくbiologicalな視点、患者・家族の生活をそっと見守るbiographicalな視点、この2つがバランスよく配され、在宅での感染症治療のあり方を立体的に捉えることができる。そのタイトル「高齢者の暮らしを守る在宅感染症診療」にある通り、生活を支えるための手段としての感染症治療のあるべき姿が具体的に示されている。
超高齢化の進行に伴い、感染症治療のメインフィールドは病院から自宅や施設にシフトしていく。優れた感染症専門医でありながら在宅医療にも精通する筆者による、まさに「在宅感染治療学」とでもいうべき新しい学術フィールドの提案といってもいいかもしれない。
在宅医療のみならず、高齢者医療に関わる病院の関係者にもぜひご一読をお願いしたい。