多細胞の寄生虫(蠕虫)である条虫が消化管に寄生して起こる疾患で,虫卵や幼虫に汚染された食品から感染する1)。わが国では日本海裂頭条虫症が最多で,ほかに国内での感染がみられるのはクジラ複殖門条虫症やアジア条虫症,無鉤条虫症である。海外渡航歴のある場合は有鉤条虫症も考慮される。感染源となる食品は,日本海裂頭条虫は海洋を回遊するサケ属(サクラマスやカラフトマスなど),無鉤条虫は牛肉,有鉤条虫は豚肉,クジラ複殖門条虫はシラス,イワシ,カツオ,アジである。アジア条虫では幼虫がブタの肝臓に寄生する。十分な加熱や冷凍によって感染を予防できる。
日本海裂頭条虫は北欧を中心に分布し,淡水域のみに棲息する魚から感染する広節裂頭条虫と同一種と考えられていたが,現在では別種であることが明らかになっている。有鉤条虫は有鉤囊虫症を起こすことがあり,治療には注意が必要である。
多くの場合無症状であり,虫体やその一部の排出で気づくことが多い。日本海裂頭条虫症やクジラ複殖門条虫症では排便後に肛門からぶら下がり,無鉤,有鉤条虫症では,下着や便に付着していることが多い。確定診断は排出された虫体や虫卵の形態学的所見をもとに行うが,時に遺伝子診断が必要となる。その場合は,最寄りの大学医学部の寄生虫学系教室や国立感染症研究所に相談する。
有鉤条虫症とそれ以外で治療法が異なる。有鉤条虫症では,患者腸管内の成虫虫体が破壊され,虫卵が腸管内に遊離するとそこから孵化した幼虫が脳,筋肉,皮下組織に至り(自家感染),医原性の有鉤囊虫症を発症することがある。このため,抗寄生虫薬の内服によって虫体を破壊する治療は推奨されず,わが国ではガストログラフイン®を用いた治療が行われている2)。それ以外の条虫では抗寄生虫薬(ビルトリシド®)で治療する。ただし,その危険性を裏づける確実な証拠は十分ではなく,欧米では有鉤条虫症の治療もビルトリシド®で行われている。
いずれの場合も治療後に患者から排出された虫体を観察し,頭節が排出されていることを確認する。確認できない場合は,1~2カ月後に検便にて虫卵の有無を確認するのが望ましい。ビルトリシド®は虫卵に対する作用はないため,治療が成功しても数日間は虫卵が排出されることがある。
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