蟯虫(Enterobius vermicularis)による腸管感染症で,寒冷地から温暖地まで世界中に分布し,およそ10億人が感染している。わが国では寄生虫疾患は激減しているが,その中でもなお最も多い寄生蠕虫症と考えられる。感染者の多くは小児で,家族内や保育園などで集団発生が起こることもある。
成虫の体長は雌8~13mm,雄2~5mmで,盲腸に寄生し,雌は早朝に肛門周囲に移動し虫卵を産下する。この産下された虫卵の刺激による肛門周囲の瘙痒感が主たる症状となることが多いが,時に無症状のこともある。小児では不機嫌や不眠などの非特異的な症状のことも多い。虫卵は産下されると4~6時間で感染性を持つようになり,乾燥にも強く,数週間〜数カ月にわたり感染性を保持する。瘙痒感のため肛門周囲を搔くことで手指や下着・寝具に虫卵が付着し生活環境が汚染される。この手指に付着した虫卵を直接,あるいは居住環境中に落下した虫卵を塵埃とともに経口摂取することにより家族内あるいは施設内感染が起こりやすい。患者が自分の指に付着した虫卵を自分の口に運び,再感染することも多い。経口摂取された虫卵は約3週間で成虫となり,雌は産卵を開始する。成虫の寿命は約2カ月で,成虫による症状はほとんどないが,稀に盲腸に寄生している成虫の虫垂迷入による虫垂炎,女性では肛門外に出た雌成虫の腟・子宮・卵管・腹腔への迷入が報告されている。
診断には,起床後・排便前に肛囲検査用セロハンテープを肛囲に貼付し,カキの種状の虫卵を検出する。2〜3回連続して検査を行うと診断率は向上する。専用テープの入手が困難なときは,文房具店で購入できる片面が粘着性の透明テープで代用可能で,シャーレあるいはスライドグラスに貼り付けて観察するとよい。
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