アニサキス症は,アニサキスの第3期幼虫が消化管に寄生した魚介類の生食(刺身や寿司など)により発症する食中毒である。感染源はサバ(「しめ鯖」を含む),アジやイワシ,イカ,タラ,サンマなどが多い。本症は食中毒に相当するため,診断した医師は24時間以内に保健所に届け出なければならない(食品衛生法第58条,中毒に関する届出)。しかし,レセプト件数と厚生労働省の統計には乖離があり,実際には届けられていない症例が多いと考えられる1)。
アニサキス既感染例では,アニサキス症を再発した場合だけでなく,アニサキス(の蛋白質)を含む可能性のある魚介類を摂取(加工食品を含む)することにより,アニサキスアレルギーやアナフィラキシーを呈することもあり1)2),注意が必要である。
上記の生食後数時間して,激しい上腹部痛,悪心,嘔吐(劇症型胃アニサキス症)をもって発症することが多く,摂食履歴の問診により容易に本症を疑うことができる。発症は摂取後半日までは36.6%,1日までが55.8%,4~5日経過後に発症した例は2.1%であった3)。時にI型アレルギーとして蕁麻疹を呈する症例が10%程度にみられ,診断の一助になりうる1)。
アニサキス症を疑うときは,速やかに上部消化管内視鏡を施行し,診断を確定することが治療に直結するので有用である。時折,虫体が複数同時に見つかることもあり,最初の虫体除去の後,再度内視鏡を挿入し,ほかに虫体がないか丁寧に観察することが大切である。また,無症候性で,上部消化管内視鏡検査時に偶然,胃粘膜に穿入する虫体が見つかる症例もある(緩和型胃アニサキス症)。
胃が93.2%,小腸が2.6%,結腸が1.1%と報告されている3)。さらに腸管を穿通し,腸管外アニサキス症を呈する症例もあり,急性腹症と診断されることもあるため注意が必要である。
アニサキス症を疑うときは上記の病態を想定し,上部消化管内視鏡を予定すると同時に,採血で好酸球増多がないか確認すること,腹部骨盤CTを施行し,胃・小腸・結腸の浮腫性病変の有無を確認することが大切である。
アナフィラキシー症例に対してはアニサキス特異的IgE抗体をELISA法で測定しておきたい。また,原因不明の蕁麻疹・アナフィラキシー症例に遭遇した場合には,アニサキスアレルギーを念頭に魚類などの摂取の有無を半日以上前までさかのぼって問診し,摂取歴がある場合にはアニサキスや回虫に対する特異的IgEを測定すべきである。
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