横川吸虫(Metagonimus yokogawai)は1911年に日本人の寄生虫学者である横川定が,台湾で最初に発見した,大きさが1.0~1.5mm×0.5~0.8mmの小さな吸虫で,腸管寄生微小吸虫症(minute intestinal fluke diseases)の主要な原因病原体である。第1中間宿主はカワニナ,第2中間宿主はアユ,シラウオ,フナ,ウグイ,コイ,オイカワ,タナゴなどの淡水魚類である。カワニナの体内で産生されたセルカリアと呼ばれる段階の幼虫は,頭部と尾部から形成され,カワニナから出て水中を泳ぎ,上記の淡水魚に寄生してメタセルカリアと呼ばれる段階の幼虫に発育する。メタセルカリアは大きさが0.14~0.16mmと小さく,魚のウロコの下に寄生するが,皮下組織や筋肉内に寄生することもある。ヒトはメタセルカリアが寄生した淡水魚を,生あるいは加熱不十分な状態で経口摂取することで感染する。日本では,アユやシラウオが感染源と考えられる症例が多い。
異形吸虫(Heterophyes heterophyes)はエジプト地域(ナイル川下流域)に存在することが知られており,ナイル川河口のボラが原因と考えられる,複数の日本人異形吸虫感染症例が報告されている。この異形吸虫に類似し,その亜種と考えられている有害異形吸虫(H. heterophyes nocens)は,日本でも太平洋岸や瀬戸内海沿岸でその存在が確認され,感染者の存在が知られている。有害異形吸虫は大きさが1.0mm×0.5mmと小型で,横川吸虫同様に腸管寄生微小吸虫症の原因病原体である。有害異形吸虫の第1中間宿主はヘナタリという汽水域に生息する貝で,この貝から出たセルカリアは汽水域の魚類(ボラ,メナダ,ハゼなど)に寄生しメタセルカリアに発育する。ヒトはメタセルカリアが寄生した汽水域の魚を,生あるいは加熱不十分な状態で経口摂取することで感染する。
横川吸虫,有害異形吸虫ともに成虫の寄生部位は小腸で,いずれも少数寄生では無症状で,検便(虫卵検査)により偶然に発見される症例が多い。多数寄生した場合は,下痢,腹痛などの消化器症状が出現する。
両者ともに便から虫卵を検出して診断する。虫卵は小さいので見逃さないように注意しながら検査を行う。直接塗抹法に比べ,集卵法で検出率が高くなると考えられている。血液検査で好酸球増多を認めることがある。便の虫卵検査で検出される横川吸虫卵類似虫卵は,形態から種の区別がつけがたく,臨床的に横川吸虫症として扱われることも多いと思われる。横川吸虫卵類似虫卵を産生する吸虫には,高橋吸虫,異形吸虫,有害異形吸虫などがある。正確には駆虫して得た虫体を観察して虫種を決定する必要があるが,実際の臨床現場では横川吸虫症として治療され,正確な虫種の決定は行われないことが多い。
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