住血吸虫属の吸虫による寄生虫症で,河川や湖沼など淡水に存在する幼虫(セルカリア)の経皮感染による。分布には地域性があり,日本住血吸虫は中国(揚子江流域),インドネシア,フィリピンに,マンソン住血吸虫はアフリカ,中東,カリブ海諸国,ブラジル,ベネズエラ,スリナムに,メコン住血吸虫はカンボジアの一部地域とラオスに,ビルハルツ住血吸虫はアフリカ,中東,コルシカ島に分布する。現在,日本国内での新規感染はなく,遭遇するのは輸入症例か数十年前に感染した陳旧例である。
日本住血吸虫,マンソン住血吸虫,メコン住血吸虫は腸間膜静脈,肝門脈系に寄生し,腸管住血吸虫症を起こす。一方で,ビルハルツ住血吸虫は膀胱壁静脈,肛門周囲の静脈叢などの骨盤内静脈に寄生し,尿路生殖系住血吸虫症を起こす。腸管住血吸虫症では,急性期には下痢,腹痛,粘血便などの消化器症状が主体で,慢性期には肝機能障害がしだいに進行して全身倦怠感,体重減少などがみられる。尿路生殖系住血吸虫症では血尿,排尿痛,排尿障害が主体となり,女性生殖器の炎症性障害も起こす。
急性期には末梢血好酸球増多がみられるとされるが,比較的新しい感染である輸入症例でも必発ではない。進行した腸管住血吸虫症では肝機能障害,肝臓の網目状線維化が特徴的な所見である。尿路生殖系住血吸虫症の慢性期では膀胱壁の線維化,石灰化がみられる。確定診断は糞便あるいは尿中に住血吸虫卵を証明することだが,感度が低いため,渡航歴や滞在歴から本症を疑った場合は,検査を繰り返す必要がある。補助診断として抗体検査も有効である。
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