【皮下脂肪量,血流量等の差により,薬剤の吸収量が異なる】
貼付薬(テープ剤,パップ剤)には,局所作用を目的とした製剤(局所型製剤)と全身作用を目的とした製剤(全身作用型製剤)があります。貼付部位による効果および副作用の差を考慮する必要性が大きいのは,全身作用型製剤と考えます。全身作用型製剤は,皮膚に適用後,以下の動態を示すと考えられます1)。①薬剤が角層に分配・拡散,②薬剤の一部が表皮から真皮へ移行,③真皮に到達した薬剤の多くが全身循環血へ移行,④標的臓器へ到達し,薬効を発揮─。そのため,製剤の皮膚への接着不十分やはがれでは①の低下,外傷では①の増加により血中濃度が変化すると考えられます。また,貼付薬に含まれる薬剤のうち,角層に移行するのは主に分子型薬剤である1)ため,皮下脂肪の量や皮膚の角質化・水分量の減少により①が変化すると考えられます。また,炎症や貼付部位温度の上昇による②および③の亢進,血流量増加に伴う③の亢進により,血中濃度が上昇すると考えられます。
ロチゴチン経皮吸収型製剤(ニュープロ®パッチ)では,承認された貼付部位において,血中濃度〔定常状態におけるロチゴチン製剤1mg当たりの血中濃度曲線下面積(area under the blood concentration time curve:AUC)(ng・hr/mL),149例〕に幅があり(肩1.33,上腕部1.18,側腹部1.16,臀部1.03,腹部1.01,大腿部0.92),最低値の大腿に対して最高値の肩は約1.46倍であったと報告2)されています。また,ブプレノルフィン経皮吸収型製剤(ノルスパン®テープ)では,承認された貼付部位(前胸部,上背部,上腕外部,側胸部)のうち,側胸部に対して上背部における薬剤の吸収量は26%高かったとの報告3)があります。高齢健康者30例における上背部への貼付を対照としたAUCの比は,貼付部位として推奨されていない下側腹壁部73.6%,大腿側上部57.0%,膝蓋骨上部29.2%と低かったとの報告4)もあります。
いずれの製剤においても,貼付部位により血中濃度に差があった理由は明らかではありませんが,製剤の皮膚への接着状況,貼付部位の皮下脂肪量や血流量に差があったことが要因のひとつと考えられます。一方,承認された貼付部位については,臨床試験において有効性・安全性(後発品においては,先発品との生物学的同等性)が確認されており,経皮吸収型製剤の薬物動態(①~③)に影響する要因がなければ,いずれの部位であっても安全で有効に使用できると考えられます。
なお,ロチゴチン経皮吸収型製剤の承認時臨床試験における貼付部位は肩,上腕部,腹部,側腹部,大腿部,臀部のみであり,また,その他の胸部貼付に関する報告もありません。そのため,ロチゴチン経皮吸収型製剤を胸部に貼付した場合の薬物動態や有効性・安全性は不明です。ロチゴチン経皮吸収型製剤は,体毛が濃い患者等においては,貼付薬が皮膚に十分に密着せず効果不十分となる可能性があることなどから,胸部への貼付は避けるべきと考えます。
【文献】
1) 大井一弥:調剤と情報. 2016;22(2):71-2.
2) Elshoff JP, et al:Clin Ther. 2012;34(4):966-78.
3) Plosker GL:Drugs. 2011;71(18):2491-509.
4) ノルスパン®テープインタビューフォーム. 2019年3月改訂.(改訂第7版)
【回答者】
川野千尋 北里大学薬学部臨床薬学研究・ 教育センター/北里大学東病院薬剤部
厚田幸一郎 北里大学薬学部臨床薬学研究・ 教育センター教授/北里大学病院薬剤部長