今回は数多くある糖尿病治療薬から,GLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬にフォーカスをあてて紹介させて頂く。2010年に最初のGLP-1受容体作動薬が上市されてから,この14年間で同じクラス内で複数の製剤が発売された。また,2023年にはGIP(glucose- dependent insulinotropic polypeptide)/GLP-1受容体作動薬という新しい製剤も登場した。投与経路・頻度,体重減少効果,そして,注射デバイスに至るまで個性豊かな製剤が開発されたため,同じクラスの薬剤としては,稀に見る多くの選択肢を持つようになった。さらに近年,血糖・体重コントロールを改善するだけではなく,心血管・腎イベントの抑制効果を認める報告もされている。
日々の忙しい診療の中,せっかくこの記事に目を留めて下さった先生方に,明日からの診療で使える生きた情報・導入のコツをお伝えできればと思う。そして,各製剤の特徴をフルに生かして,患者一人ひとりの生活様式・治療目的に合った薬剤をぜひとも選んで頂きたい。
現在,糖尿病治療薬には非常に多くの種類がある(図1)。これを高血糖の成因に対する治療法という観点から分類すると「インスリン抵抗性改善系」「インスリン分泌促進系」「糖吸収・排泄調節系」,そして「インスリン製剤(注射)」にわけることができる。
「インスリン分泌促進系」と言えば,これまで長い間使用されてきたスルホニル尿素薬(SU薬)とグリニド薬が挙げられる。これらの薬剤は血糖値に関係なく,グルコース非依存性にインスリン分泌を促進する。その強力な血糖降下作用は,適切なタイミングで内服しなければ,もしくは食事を摂らなかったり,少なかったりすると低血糖を起こす可能性がある。
一方,DPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬やGLP-1受容体作動薬(GIP/GLP-1受容体作動薬)はインクレチン製剤と称される。インクレチンとは,食事摂取に伴い消化管から分泌されるホルモンの総称で,GLP-1とGIPがある。食事を摂取すると栄養素が吸収され小腸下部からGLP-1,小腸上部からGIPが分泌される。そして血液を介して膵臓に作用し,インスリンの分泌を促進するとともに,血糖上昇作用を持つグルカゴンの分泌を抑制する。血糖が上昇して初めて,血糖依存性にインスリン分泌が促進される。
インクレチン製剤は,膵β細胞の血中グルコースやSU薬・グリニド薬によって惹起されるインスリン分泌の経路を増幅することになるため,両薬剤を併用するときは,低血糖のリスクが上がることには注意されたい。
次に,インクレチン製剤のDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬(GIP/GLP-1受容体作動薬)の違いを説明する。小腸のK細胞・L細胞から分泌されたGIP,GLP-1は血中に放出されると,血中のDPP-4によってすぐに分解されるため,半減期は約2〜5分と非常に短い (図2)。DPP-4阻害薬は,この分解酵素の働きを阻害するものであり,内因性に分泌されたGLP-1やGIPを「生理学的濃度」まで上昇させることが可能になる。一方,GLP-1受容体作動薬(GIP/GLP-1受容体作動薬)は,外因性に投与するため,「薬理学的濃度」まで上昇させることが可能になる。大変興味深いことに,薬理学的濃度のGIPとGLP-1は,ともに血糖改善に効果的に働くのに対して,生理学的濃度のGLP-1では,胃の内容物排泄遅延作用があり,驚くことにGIPでは,肥満やインスリン抵抗性の誘導と血糖改善とはまったく逆の効果を示すことがわかっている。薬理学的濃度のGIPとGLP-1では視床下部の食欲中枢に作用し,食欲低下・体重減少効果を発揮するようになった。すなわち,DPP-4阻害薬による生理学的濃度では不十分であった体重減少効果を,GLP-1受容体作動薬(GIP/GLP-1受容体作動薬)による薬理学的濃度では,達することができるようになった(図3)。
また,GLP-1受容体作動薬は脳,膵臓,消化管に作用し,血糖・体重に対する効果のみならず,全身の臓器にも影響を与えることも明らかになっている(図4)。