プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)は内服後,小腸で吸収され体内循環により胃の壁細胞に到達し,壁細胞の分泌細管内に分泌される。そこで酸に接することにより活性型となり,分泌細管の膜上に存在するプロトンポンプにS-S結合にて非可逆的に結合してプロトンポンプを不活化し,胃酸分泌を抑制する(図1a上)。しかし,PPIはその活性化に酸を要することから,言い換えれば,酸がなければ活性化されず,理論上,完全に胃酸分泌を抑制することができない。さらに,活性型のPPIは非常に不安定であり,分泌細管内に長く存在することができない。そのため,血中からのPPIの供給がなくなると分泌細管中に活性型のPPIは消失してしまい,それまで休止期であったプロトンポンプが活性化されて分泌細管の膜表面に現れても不活化できず,胃酸分泌は回復する(図1a下)。したがって,後述するCYP2C19のextensive metabolizer(EM)で,特に第1世代のPPIを用いた場合は血中からPPIの供給が速やかに消失してしまうため,胃酸分泌抑制が不十分となる1)。
ボノプラザン(VPZ)も内服後小腸で吸収され,体内循環により胃の壁細胞に到達し,壁細胞の分泌細管中に分泌される。VPZはPPIと異なり,未変化体のままで分泌細管の膜上に存在するプロトンポンプのカリウムチャンネルに可逆的に結合し,プロトンポンプのH+とK+の交換を阻止して,胃酸分泌抑制を達成する(図1b上)。VPZはPPIと異なり,その活性化に酸を必要としないことから,理論上,胃酸分泌を完全に抑制することができることとなる。また,PPIと異なり,VPZは酸に対して安定であり,分泌細管の膜表面に現れるプロトンポンプを次々と不活化するため,胃酸分泌を完全に遮断できることとなり,分泌細管内からVPZが押し流されることもなく高濃度で長くとどまることができる。もともとVPZの半減期はPPIよりも長いが,PPIと異なり血中からの供給がなくなっても分泌細管中に存在し続けることができ,効果が長く続くこととなる。そのため休止期であったプロトンポンプが遅れて活性化されて膜表面に現れても不活化できるため(図1b下),長時間にわたって強力な胃酸分泌抑制を達成できる2)。