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特集:解決!PPI・VPZ処方7つの疑問

No.5232 (2024年08月03日発行) P.18

古田隆久 (ふるた内科クリニック院長)

登録日: 2024-08-02

最終更新日: 2024-07-31

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産業医科大学医学部卒業,浜松労災病院,浜松医科大学第一内科,同救急部,同臨床研究管理センター等を経て2022年から現職。筆者論文にPharmacogenomics of proton pump inhibitor. Pharmacogenomics. 2004;5(2):181-202. 他。

1 PPIとVPZの酸分泌抑制機序はどのように違うのか?

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI)は壁細胞のプロトンポンプのαサブユニットと非可逆的に結合するのに対し,ボノプラザン(VPZ)はカリウムチャンネルに可逆的に結合して酸分泌を抑制する。

2 PPIとVPZの胃酸分泌抑制効果に個体差はあるのか?

  • PPIの血中動態や効果は代謝酵素のCYP 2C19の遺伝子多型に影響されるが,VPZはほとんど影響されない。

3 PPIやVPZの投与はいつがよいのか? 食前・食後? 朝・夕?

  • PPIもVPZも食後でTmaxが延長する。食事刺激での酸分泌の抑制も考慮し,どちらも食前投与が好ましい。

4 PPIやVPZは併用薬との薬物間相互作用はあるのか?

  • PPIやVPZの胃酸分泌抑制は併用薬の吸収に影響することがある。数種の薬物代謝酵素への阻害作用があり,基質薬物の血中動態に影響する。また,PPIはメトトレキサート(MTX)の血中濃度を高める。PPIは金属イオン含有薬物との併用で吸収が低下する。

5 PPIやVPZの長期投与で問題点はあるのか?

  • PPIもVPZも長期の胃酸分泌抑制にてミネラルの吸収低下や,胃や腸内細菌叢への影響が懸念される。酸分泌抑制に伴う高ガストリン血症には神経内分泌腫瘍のリスクが懸念されている。

6 PPIとVPZはどのように使いわけるべきか?

  • 重症逆流性食道炎の初期治療ではVPZが,軽症ではPPIとVPZのいずれも選択される。重症逆流性食道炎の維持療法はVPZ,軽症ではPPIで十分である。
  • H. pylori一次除菌ではVPZが選択され,二次除菌ではいずれも選択可能。

7 適応と用量と投与期間での注意点:どのPPIも同じように使用可能か?

  • PPIもVPZも適応疾患に応じた初期投与期間が決められている。適応疾患とPPIの用量/投与期間は確認が必要である。

1 PPIとVPZの酸分泌抑制機序はどのように違うのか?

プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)は内服後,小腸で吸収され体内循環により胃の壁細胞に到達し,壁細胞の分泌細管内に分泌される。そこで酸に接することにより活性型となり,分泌細管の膜上に存在するプロトンポンプにS-S結合にて非可逆的に結合してプロトンポンプを不活化し,胃酸分泌を抑制する(図1a上)。しかし,PPIはその活性化に酸を要することから,言い換えれば,酸がなければ活性化されず,理論上,完全に胃酸分泌を抑制することができない。さらに,活性型のPPIは非常に不安定であり,分泌細管内に長く存在することができない。そのため,血中からのPPIの供給がなくなると分泌細管中に活性型のPPIは消失してしまい,それまで休止期であったプロトンポンプが活性化されて分泌細管の膜表面に現れても不活化できず,胃酸分泌は回復する(図1a下)。したがって,後述するCYP2C19のextensive metabolizer(EM)で,特に第1世代のPPIを用いた場合は血中からPPIの供給が速やかに消失してしまうため,胃酸分泌抑制が不十分となる1)

 

ボノプラザン(VPZ)も内服後小腸で吸収され,体内循環により胃の壁細胞に到達し,壁細胞の分泌細管中に分泌される。VPZはPPIと異なり,未変化体のままで分泌細管の膜上に存在するプロトンポンプのカリウムチャンネルに可逆的に結合し,プロトンポンプのH+とK+の交換を阻止して,胃酸分泌抑制を達成する(図1b上)。VPZはPPIと異なり,その活性化に酸を必要としないことから,理論上,胃酸分泌を完全に抑制することができることとなる。また,PPIと異なり,VPZは酸に対して安定であり,分泌細管の膜表面に現れるプロトンポンプを次々と不活化するため,胃酸分泌を完全に遮断できることとなり,分泌細管内からVPZが押し流されることもなく高濃度で長くとどまることができる。もともとVPZの半減期はPPIよりも長いが,PPIと異なり血中からの供給がなくなっても分泌細管中に存在し続けることができ,効果が長く続くこととなる。そのため休止期であったプロトンポンプが遅れて活性化されて膜表面に現れても不活化できるため(図1b下),長時間にわたって強力な胃酸分泌抑制を達成できる2)

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