PSA検査を用いた前立腺がん検診について、2019年11月23日の日本経済新聞、2018年8月22日の毎日新聞に、死亡率低下効果が不明のため、住民検診での実施は不適当との記事が出ました。PSA検診に僅かな死亡率低下効果があると仮定した場合でも、不利益が大きすぎるために、現時点で全てにおいて不利益しかない検診との評価であり、現在約80%の市町村で実施しているPSA検診は中止すべきとの強硬な意見です。
これら一連の否定的な報道は、厚生労働省の「がん検診のあり方に関する検討会」の見解によるもので、2019年1月7日の共同通信の記事でも紹介されています。このような、PSA検診を「推奨されていない」検診と全面否定する根拠は、国立がん研究センターなどの研究班が「PSA検診は効果を判断する証拠が現状では不十分」と判断したことを主な理由としています。そして、2019年度中に「推奨しない」がん検診の指針を示すとのことです。
前述の研究班とは、厚労省「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班と、厚労省「がん検診の評価とあり方に関する研究」班の小班です。前者は2008年に「有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン」を、後者は2009年に発表された無作為化比較試験(RCT)のEuropean Randomized Study of Screening for Prostate Cancer(ERSPC)と米国のProstate,Lung,Colorectal,and Ovarian(PLCO)Cancer Screening研究の結果を受けて、2011年に「更新ステートメント」を出しています。
「更新ステートメント」では両RCTが相反する結果のため、PSA検診は死亡率低下効果が不明と結論しています。しかしその後、PLCO研究は、対照群のPSA検査のコンタミネーションがきわめて高く、政策を決める際の研究として採用すべきでないことが明らかになり、2011年の「更新ステートメント」は、現時点では科学的整合性を失っています。
次回からPSA検診に批判的な意見の背景となっている主な論拠を取り上げ、それらに対する泌尿器科臨床医の視点を解説します。
伊藤一人(医療法人社団美心会黒沢病院病院長)[泌尿器科における新しい問題点や動き]