編集: | 本間之夫(日本赤十字社医療センター泌尿器科部長) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 170頁 |
装丁: | 単色 |
発行日: | 2007年10月30日 |
ISBN: | 978-4-7849-4278-7 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
排尿・排便のトラブルについて知っておきたい、また、どうしたらそれらのトラブルに対応できるか、具体的なヒントが欲しいときの一冊。Q&A形式を用い、実践的な記述や具体的な事例を通して、すぐにでも利用できる知識を提供。排泄関連用具の使い方もふんだんに盛り込みました。排泄のトラブルを扱う医療・看護の専門職やそれを目指す育成コースにある方は必携です。
第1章 排泄の仕組みとそのトラブル
1.排泄の仕組みとそのトラブルQ&A
Q1 尿や便はどのようにして作られるのですか?
Q2 尿や便はどのようにしてためられるのですか?
Q3 尿や便はどうやって出されるのですか?
Q4 排泄のトラブルの症状にはどのようなものがありますか?
Q5 排泄のトラブルの診断と治療で注意すべき点は?
Q6 お年寄りや体の不自由な人の場合に注意すべき点は?
第2章 検査の種類とその内容
1.排尿のトラブルの検査Q&A
Q1 尿流動態検査(ウロダイナミクス)とは?
Q2 泌尿器科で行われる内視鏡検査とは?
Q3 排尿トラブルに対して行うX線検査とは?
Q4 排尿トラブルに対して行う超音波検査とは?
Q5 パッドテストとは?
2.排便のトラブルの検査Q&A
Q1 大腸通過時間検査とは?
Q2 肛門内圧検査とは?
Q3 排便造影検査とは?
Q4 肛門管超音波検査とは?
Q5 排便トラブルに対して行うMRI検査とは?
Q6 陰部神経伝導速度検査とは?
第3章 主な疾患・病態と治療
1.排尿障害の主な疾患・病態と治療Q&A
Q1 腹圧性尿失禁とは?
Q2 過活動膀胱(切迫性尿失禁)とは?
Q3 溢流性尿失禁とは?
Q4 急性細菌性膀胱炎とは?
Q5 間質性膀胱炎とは?
Q6 低活動膀胱とは?
Q7 前立腺肥大症とは?
Q8 前立腺炎とは?
Q9 神経性頻尿とは?
Q10 骨盤内臓脱とは?
2.排便障害の主な疾患・病態と治療Q&A
Q1 便失禁とは?
Q2 便失禁の病歴聴取のポイントは?
Q3 便失禁の原因は?
Q4 便失禁の治療法は?
Q5 便秘とは?
Q6 便秘の原因は?
Q7 便秘の治療法は?
第4章 症状別の対応
1.排尿の症状(下部尿路症状)Q&A
Q1 尿が近くて困っているのですが?
Q2 尿を我慢することができず,もれてしまうのですが?
Q3 尿が出にくかったり,排尿を終えても残っている感じがしますが?
Q4 尿がたまっているときや排尿時,排尿後などに痛いのですが?
Q5 排尿の悩みにどのように対処したらいい
のでしょう?
2.排便の症状Q&A
Q1 便が近くてトイレに間に合わないのですが?
Q2 いつの間にか,知らない間に便がもれるのですが?
Q3 下剤を使わないと便が出ないのですが?
Q4 ガスがたまったり,腹部不快感があるのですが?
Q5 便がうまく出せなかったり,残っている感じがするのですが?
Q6 下着にシミがついたり,肛門周囲がじめじめするのですが?
第5章 ケーススタディ
1.排尿障害の症例
症例1 自尿が出なくなった74歳女性
症例2 自己導尿をしている66歳男性
症例3 切迫性尿失禁の74歳男性
症例4 排尿困難の90歳男性
症例5 下肢運動障害の80歳男性
2.排便障害の症例
症例1 二分脊椎の8歳女児における排便管理
症例2 腸閉塞の既往のある56歳男性
症例3 頸椎症の手術後に排便困難が出現した53歳男性
症例4 元来便秘で2~3カ月前より便失禁が出現した77歳男性
症例5 出産後便秘が顕著になった47歳女性
3.神経疾患による排泄障害の症例
症例1 多発性硬化症の36歳女性,会社員
症例2 多発性脳梗塞の76歳男性,農業
症例3 神経症,糖尿病,多発性脳梗塞,アルツハイマー病の70歳女性,自営業(店舗)
4.婦人科疾患による排泄障害の症例
症例1 コルセットをしたら尿意切迫があり子宮がはみ出してきた72歳女性
症例2 子宮頸癌治療後に排尿困難と尿失禁がある52歳女性
症例3 妊娠36週,最近頻繁に尿もれする39歳初産女性
第6章 ワンポイントアドバイス
1.排尿日誌
Q1 排尿日誌とは?
Q2 排尿の記録をつける意味は?
Q3 残尿量測定の目的と方法は?
2.膀胱訓練・排尿誘導
Q1 膀胱訓練とは?
Q2 排尿誘導とは?
3.骨盤底筋体操
Q1 骨盤底筋群と骨盤底筋体操とは?
Q2 骨盤底筋体操の具体的な方法は?
4.自己導尿の管理
Q1 自己導尿とその目的は?
Q2 間欠導尿を行う際の注意点は?
5.留置カテーテルの管理
Q1 尿道留置カテーテルの適応と合併症は?
Q2 尿道留置カテーテルの実際と注意点は?
Q3 膀胱留置カテーテル挿入中のケアは?
6.膀胱瘻・腎瘻の管理
Q1 尿路変更術とその適応・目的は?
Q2 膀胱瘻・腎瘻カテーテル挿入時の注意点は?
7.腸洗浄
Q 腸洗浄とは? その実際と注意点は?
8.バイオフィードバック療法
Q バイオフィードバック療法とは?
9.下剤の使用法
Q 下剤の使い方がわからないのですが?
10.排便日誌
Q 排便日誌はどのように活用すればよいですか?
11.パッド・おむつ
Q パッド・おむつの使用に関する注意点は?
12.行政のサービス
Q 排尿・排便を援助する行政サービスとは?
13.訪問看護・介護サービス
Q 排泄を援助する訪問看護・介護サービスとは?
第7章 使ってみたい排泄用品の選び方・使い方
1.排泄障害における用具活用
Q1 排泄障害における用具活用のメリットは?
Q2 排泄用具適応のポイントは?
2.ADLレベル別排泄用具の選び方・使い方
Q1 寝たきりレベルの人に対する排泄用具の意義は?
Q2 尿意・便意がある寝たきりレベルの人が使える用具は?
Q3 尿意・便意がない,またはコントロールできない寝たきりレベルの人が使える用具は?
Q4 座位レベルの人に対する排泄用具の意義は?
Q5 尿意・便意がある座位レベルの人が使える用具は?
Q6 尿意・便意がない,またはコントロールできない座位レベルの人が使える用具は?
Q7 立位・歩行レベルの人に対する排泄用具の意義は?
Q8 尿意・便意がある立位・歩行レベルの人が使える用具は?
Q9 尿意・便意がない,またはコントロールできない立位・歩行レベルの人が使える用具は?
付 録1.ブリストルスケール 151
付 録2.薬剤一覧
付表1 主に蓄尿症状に用いられる薬剤 152
付表2 主に排尿症状に用いられる薬剤 153
付表3 便秘に用いられる薬剤 154
付表4 下痢に用いられる薬剤 155
このページを読んで下さっているあなたは、なぜこの本を手にとってみられたのでしょうか。排尿や排便のトラブルについて知っておきたい、具体的にどうしたらトラブルに対応できるかヒントが欲しいということでしょうか。
もちろん、この本はそのようなご要望にお応えするために書かれたものです。そのために、教科書的な書き方だけではなく、具体的な事例を入れ、項目の間に関連があるように工夫もしました。用具の使い方もふんだんに盛り込みました。
しかし、この本の著者の誰もが思っているのは、もしあなたにもう少し時間があれば、排尿や排便のトラブルの背景についても考えてもらえないかということです。
排尿や排便のトラブルは生活の質(QOL)を大きく損ない、個人の尊厳にもかかわってくる問題であることはよく知られている通りです。しかし、その管理は十分とはいえません。例えば、わが国の40歳以上の一般住民を対象とした調査の結果では、何らかの排尿の症状で困っている人の割合は15%くらい(実数で約1,000万人)にもなります。しかし、そのうち医療機関を受診したのは18%に過ぎません。つまり、受診した人は全体の3%にもなりません。高齢者では尿失禁は30%かそれ以上にみられ、実数は約400万人と推定されます。しかし、失禁のある高齢者の中で泌尿器科医を受診したことのある人は、わずか5%程度でした。便失禁は40歳以上の約3%、高齢者の約10%にみられましたが、受診者の割合は同様に決して高いものではないでしょう。尿や便のもれに対してはおむつを使っていることが多いと推定されます。でも、失禁について専門的な評価のないままおむつを使うのはいかがなものでしょう。どうやら、排泄のトラブルは専門家に相談しないままおむつをあてるというのが常識のようです。これはどうしてでしょうか。
排尿や排便は誰もが毎日ふつうに行っていることです。にもかかわらず、社会の中ではタブー視されています。この心理的な抵抗のために、排泄のトラブルには医学的に正しい対応をしようとせず、文字通り「臭いものには蓋」をしてしまうのでしょう。同じ理由で、排尿や排便に関する医学の研究や、排尿や排便のトラブルに対応する知識の普及も遅れているのではないでしょうか。
医療や健康に関する常識や見方は、大きく変化しています。排泄のトラブルについてもきっと変わっていきます。例えば、トラブルを抱えた人に対する見方です。今は、トイレ以外で排泄してしまう困った人という見方かもしれません。しかし今後は、トイレで排泄をする権利(排泄権とでもいいますか)が脅かされている弱者だという見方に変わるかもしれません。排泄に対する科学的な見方はどうでしょう。今は、せいぜい医学のほんの一部という扱いかもしれません。しかし、医学を越えて社会科学まで巻きこむ科学(排泄学とでもいいますか)が必要とされるようになるかもしれません。なぜならば、排泄のトラブルは、トラブルを抱える個人にとっては人権に及ぶ全人的な問題であり、それに対応する者にとっては多分野の専門能力を要する学際的な問題であるからです。
本書がそのような全人的・学際的な要求に十分に応えているとはとても申せません。しかしその一方で、Q&A形式を用い、実践的な記述や具体的な事例を通して、すぐにでも利用できる知識を提供するようにしました。その行間には、著者の思いが滲んでいるような気がします。主な読者としては、排泄のトラブルを扱う医療・看護の専門職やそれを目指す育成コースにある人たちを想定しています。しかし、排泄は生活の基本であるという意味からは、医療・看護に関係するすべての人が想定される読者といえるでしょう。この本が、広く排泄のトラブルに関係する方々にお役に立てば、著者一同の幸いとするところです。
2007年9月
本間之夫
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。