クリプトスポリジウム症は,Cryptosporidium属原虫感染による下痢を主症状とする疾患である。Cryptosporidium属の中でもヒト型に分類されるC. hominisとウシ型に分類されるC. parvumの感染が95%以上を占める。前者はヒト-ヒト感染により,後者は主にウシから感染する人獣共通病原体である。七面鳥やニワトリなどの鳥類に寄生するC. meleagridisのヒト感染例も報告されている。5類感染症であり,診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出る必要がある。年間の届出数は数例~多くても20例程度であるが,時折,集団感染を起こすことがあり,規模の大きいものではプール水の汚染によりC. hominisに感染し288人の有症状者がみられた事例1)や,牧場体験で子ウシと接触した小学生230人がC. parvumに感染した事例がある2)。
クリプトスポリジウム症はAIDS指標疾患のひとつであり,本症と診断した患者ではHIV/AIDSのリスクを評価し,HIV感染症の検査を行う必要がある。
患者や動物から排出されるオーシストが感染性を持つ。オーシストで汚染された水や患者の排泄物の取り扱い,動物との接触により手指に付着したオーシストを経口摂取することで感染する。男性同性愛者ではoral-anal sexによる糞口感染である。
潜伏期は4~10日,主要症状は水様性下痢である。発熱,腹痛,嘔気・嘔吐,関節痛を伴うこともある。健常者では数日~2週間程度で自然治癒するが,免疫不全者,特にAIDS患者では難治性の重症下痢により,脱水で死に至ることもある。小児や免疫不全者では慢性下痢症だけでなく,呼吸器症状や胸部異常陰影,胆囊炎・胆管炎・膵炎といった消化管外病変を合併することがある3)。
便検査によりオーシストを検出する。オーシストは直径約5µmと小さく,検査法はショ糖浮遊法が最も適している。そのほか便塗抹標本の抗酸染色や,オーシスト壁を特異抗体で染色し蛍光顕微鏡で観察する試薬(免疫蛍光抗体法)により検出することもできる。本症を疑い検査する際には,検査室にその旨を連絡することが勧められる。PCR法では,便からクリプトスポリジウム遺伝子を検査することとヒト型,ウシ型の鑑別が可能であるが,検査可能な施設は限定的である。
クリプトスポリジウム症患者を診断したら,必ずHIV/AIDSリスクを評価し,HIV感染症の検査を行う。他の免疫不全の検索が必要な場合もある。
免疫健常者か免疫不全,特にHIV/AIDSがあるか否かで方針が変わる。
免
疫健常者であれば自然治癒するため,補液による脱水,電解質の補正が治療の基本となる。HIV/AIDS患者の場合は抗HIV薬投与を行い,原疾患をコントロールすることが治療の第一である。抗HIV薬投与前には免疫状態(CD4数),HIVウイルス量の評価,他の日和見感染症の検索を行う。重症例ではニタゾキサニドやパロモマイシン,アジスロマイシンの投与を検討する4)。
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