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ロタワクチン定期接種化─ベネフィット・リスクをどう説明する?【まとめてみました】

No.5036 (2020年10月31日発行) P.14

登録日: 2020-10-29

最終更新日: 2020-10-29

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乳児に対するロタウイルス感染症の予防接種が10月1日から定期接種化された。厚生労働省はロタウイルスワクチンの接種により「ロタウイルス胃腸炎による入院患者を約70~90%減らすことができる」とするが、副反応として腸重積症のリスクが高まることが報告されており、医療現場では不安を抱く保護者から説明を求められる場面が増えていることが予想される。定期接種スタート前にMSD主催のセミナーで日大医学部小児科学主任教授の森岡一朗氏が行った解説をもとに、ロタワクチン接種のベネフィットとリスクを整理する。

新たに定期接種の対象となったロタワクチンには、5価の弱毒生ウイルスワクチン「ロタテック」(MSD)と1価の弱毒生ウイルスワクチン「ロタリックス」(グラクソ・スミスクライン)の2種類がある。いずれも経口接種で、有効性は同等とされている。

初回接種は「生後14週6日まで」

「ロタテック」は生後6~32週の間に3回接種、「ロタリックス」は生後6~24週の間に2回接種と接種回数は異なるが、初回接種の標準的接種期間はいずれも「生後2月から生後14週6日まで」(医学的には生後6週から接種可能)とされている。

「生後2月から」としたのは、生後2月から接種可能となるヒブ、小児肺炎球菌、B型肝炎との同時接種を想定しているため。「生後14週6日まで」としたのは、0歳児は月齢が進むと腸重積症を自然発症しやすくなることが知られており、できる限り腸重積症が起こりにくい時期に初回接種を終える必要があるためで、厚労省は生後15週以降に初回接種を受けることを推奨していない。

両ワクチンとも経口接種のため接種後吐き出す可能性があるが、この場合の対応について厚労省は「少量でも飲み込んでいれば一定の効果がある」などの理由から、追加投与は必要ないとの見解を示している。

「ワクチン導入のインパクトは大きい」

ロタワクチン接種に重症胃腸炎を減らす効果があることは明らかだとしても、そのベネフィットは腸重積症のリスクを上回ることを医療現場でどう説明すればいいか。9月17日にMSD主催のメディアセミナーで講演した森岡氏は、ロタワクチンのベネフィットとリスクについて詳しく解説した。

「ロタリックス」が2011年11月、「ロタテック」が2012年7月に任意接種として導入された後のインパクトについて、森岡氏は、3歳未満の重症ロタウイルス胃腸炎がワクチン導入後減少したことを示す新潟県新発田市のデータなどを用いて説明。

ロタウイルス流行期の3~6月に神戸こども初期急病センターで感染性胃腸炎児の便中ロタウイルス抗原検出率を調べた自身の研究(表1)も紹介し、「(ワクチン導入後)胃腸炎の減少により便を検査する機会も減ったが、検出率を見ると、2011年の7割(67%)から2014年には3割(27%)まで減った。やはりロタワクチン導入のインパクトは大きい」と述べた。

腸重積症1例生じる間に480例予防

腸重積症のリスクについては、厚生科学審議会のワクチン評価小委員会が2018年に整理したワクチン導入前後の腸重積症発生率のデータを示し、月齢3カ月児のみ10万人年当たり「34.8」(2007~2011年)から「63.2」(2012~2014年9月30日)に増加したと説明。これを基に計算すると、過剰に腸重積症が発生した人数は約25人(24.7人)になるとした。

一方、ロタウイルス胃腸炎による入院はワクチン導入後1万1990人予防できたとするデータがあることから、ワクチン評価小委員会ではベネフィット・リスク推計について「ロタワクチンによる副反応で腸重積症が1例生じる間に480例(=1万1990/25)のロタウイルス胃腸炎入院例が予防されている」(表2)と判断していることを紹介し、森岡氏はベネフィットがリスクを上回ることを強調した。

 

腸重積症早期出現の頻度は上昇

腸重積症の副反応に不安を抱く保護者に対しては、これらのデータを踏まえ、ベネフィットとリスクを分かりやすく説明することが求められる。それでも初回接種後1~2週間は腸重積症のリスクが高まることから、森岡氏は、接種後に腸重積症を示唆する症状(間欠的な啼泣、不機嫌、血便、嘔吐など)がみられる場合は速やかに医師の診察を受けさせるよう保護者にしっかり説明することも重要とした。

また、定期接種化でロタワクチン接種率が向上すると、生後7~9カ月がピークとされていた腸重積症が早期に出現するケースが増えるため、森岡氏は「生後3~4カ月でも腸重積症が起こる可能性があることを小児科医に周知し、早期発見・治療をして悪化させることがないよう努めたい」と述べた。

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