皮膚や鼻咽腔,時に遠隔部位で増殖した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が産生するexfoliative toxin(ET)が,血流を介し全身の皮膚のデスモグレインを切断することで,皮膚に急速に水疱,びらんを形成する疾患である。
多くは6歳以下の小児,特に新生児や乳児に多い。成人では稀であるが,80歳以上の高齢者では罹患リスクは上昇する。発熱,全身倦怠感などの症状とともに,間擦部の発赤,びらん,口囲や眼周囲に放射状の亀裂を生じ,顔面は浮腫状となり,特徴的な顔貌を呈する。咽頭発赤はみられても口腔粘膜病変は通常みられず,皮膚のNikolsky現象は陽性となる。
鑑別診断として,皮膚科医が比較的遭遇することが多い,「熱傷」「伝染性膿痂疹」「TEN型薬疹・Stevens-Johnson症候群」「天疱瘡」以外にも,「トキシックショック症候群」「猩紅熱」「川崎病」などが挙げられる。また,乳幼児に多く,頻度は少ないが,化膿性の肺炎,筋炎,関節炎,心内膜炎などをベースに発症している場合もあるため,小児科医と皮膚科医の連携した診断プロセス,治療方針の検討が望ましい。鼻腔,皮膚はもちろん,血液,咽頭,その他感染のフォーカスとなりうる部位から,可能な限り培養検査を施行し,原因菌および抗菌薬感受性を特定する。
本疾患が疑われた場合は,原則入院の上,抗菌薬の点滴静注を行う。軽症~中等症でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)をターゲットとする場合,グラム陽性球菌に高い有効性を示す第1もしくは第2世代のセフェム系抗菌薬を使用する。具体的には,セファゾリンまたはセフォチアムの点滴静注が選択される。重症例,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の感染リスクが高い患者(90日以内の入院歴,透析歴,カテーテル挿入歴,抗菌薬使用歴)では,抗MRSA薬から投与を開始し,薬剤感受性結果を確認してから,抗菌薬のde-escalationを行う。一部では,クリンダマイシンが病原性ブドウ球菌外毒素のリボソーム産生を減少させる可能性があるという理論に基づいて,セファゾリンなどとともに併用されるが,エビデンスは十分ではない1)2)。抗菌薬の投与期間は,おおむね10日程度で終了とし,治療に反応が遅い場合などは14日程度まで投与を継続する。点滴から内服への切り替えのタイミングとしては,全身状態の改善や,経口摂取可能であることなど,一般的に推奨される抗菌薬の切り替え法に準じて行う。
抗菌薬の感受性に合った投与にもかかわらず皮疹の改善が得られない場合には,皮膚生検を行い,診断が正しいか確認を行う。重症例において,免疫グロブリン静注療法(IVIG)や血漿交換の有効症例が報告されているが3)4),十分なエビデンスは得られていない。
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