【メリットが多く,適応拡大が望まれる】
wide awake surgeryはエピネフリン含有局所麻酔薬により行う手術である。Lalondeによりwide awake local anesthesia no tourniquet(WALANT)と報告され1)2),近年手外科領域で注目されている手技である。
WALANTの概要としては,目的とする術野に27G以上の細い針を使用し,皮膚に対して垂直に刺入して皮下に複数箇所浸潤させる。この手技の第1の利点は,全身麻酔を行わず覚醒下に行えるため,患者の自動運動機能を確かめながら手術が可能な点である。たとえば,腱移行術での腱の緊張度を決める際,術中に患者に自動運動を指示できるため,詳細な機能評価が可能である。また,エピネフリンによる出血抑制効果や麻酔作用時間の延長により,空気止血帯を使用せずに手術が可能な利点がある。したがって,患者にターニケットペインの負担を強いることもない。また,血液透析患者のシャント側に手術を行う場合,空気止血帯を使用せずに行えれば,シャント血管閉塞時の泌尿器科へのバックアップが不要となる。さらに,従来全身麻酔下で行ってきた手術が局所麻酔で行えることから,医療経済的にも有用である。
これらの手術手技は,欧米では手指を含めた上肢全体に行われているが,わが国では固有指レベルでの使用は,添付文書上禁忌となっているため,手掌や手背より近位での手術が適応となる。今後,世界的にもエビデンスが集積されれば,わが国でも適応が拡大される可能性がある。
【文献】
1) Lalonde D, et al:Arch Plast Surg. 2014;41(4): 312-6.
2) Warrender WJ, et al:JBJS Rev. 2018;6(5):e8.
【解説】
大野克記 大阪医科大学整形外科