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シーボルト(16)[連載小説「群星光芒」139]

No.4720 (2014年10月11日発行) P.66

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-23

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  • ドゥ・ウィット総領事は、「時代遅れの老軍医が本職を差し置いて余計な口出しをする」と外国奉行に苦情を申し入れた。「幕府には訳官の福澤諭吉や福地源一郎がいるのにシーボルトは勝手に三瀬周三を専属通詞にしている」との不満もつけくわえた。

    そして文久元(1861)年7月、大事件が起こった。イギリス公使館が置かれた芝高輪の東禅寺が水戸浪士によって焼討されたのだ。このときウィットは、「単独行動をとるシーボルトを江戸に滞在させるのは極めて危険である。警固上も問題があり責任がもてぬ」と外国奉行に指摘した。

    このためシーボルトはわずか7カ月間で外事顧問を解雇された。

    シーボルトに頼まれて日本の歴史書を翻訳していた周三も、「その方の訳業に不審の点あり。また士分にあらずして苗字帯刀の禁を犯した」と罪状を着せられて逮捕された。

    驚いたシーボルトは外国奉行に嘆願書を提出したが無視され、周三は江戸石川島の人足寄場に放り込まれた。横浜にいたシーボルトも即刻長崎へ退去するよう幕府から厳命を受けた。

    シーボルトはこの国の世情が驚くほど変化したことをひしひしと感じた。オランダの独占貿易は終りを告げ、幕府は露、仏、英、米と通商条約を結んだ。あれほど威光を放っていた将軍家も斜陽のきざしが隠せない。

    ―今や自分は各方面から邪魔者扱いにされている…。

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