【DPP-4阻害薬,SGLT2阻害薬による血管内皮機能障害・動脈硬化の予防】
糖尿病治療の目的は,細小血管障害(腎症,網膜症,神経障害)と大血管障害(冠動脈疾患,脳血管障害,末梢動脈疾患など)を予防することである。大血管障害の進行は,血管内皮機能障害をトリガーとした動脈硬化の進行ととらえることもできる。
空腹時血糖が正常でも,食後血糖(糖負荷後2時間値)が高値であれば,心血管イベントの発症リスクは高まる。これは,食後高血糖が酸化ストレスを増大させながら血管内皮の機能不全を引き起こし,動脈硬化を進行させるためである。また,低血糖も血管内皮機能障害や交感神経活性を介して心血管イベントを増加させる。これらのことから,変動を最小限に抑えつつ血糖値を低下させることが,糖尿病治療では重要であることがわかる。
DPP-4阻害薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進しグルカゴンの分泌を抑制する。SGLT2阻害薬は腎での再吸収阻害により尿中ブドウ糖排泄を促進する。これらの薬剤は低血糖を起こしづらく,また血糖変動を抑える。さらに,DPP-4阻害薬は血管内皮機能障害や動脈硬化の進行を抑制し,SGLT2阻害薬は複数の大規模臨床試験で心血管イベントの抑制効果が示されている。これらの薬剤に加えてビグアナイド薬やチアゾリジン誘導体も,インスリン抵抗性とともに血管内皮機能の改善効果が示されている。
このように,糖尿病治療では,単にHbA1cを低下させるだけではなく,血糖変動を抑え抗動脈硬化作用を有する薬剤を選択するなど,心血管イベント抑制を見据えた治療が重要になってきている。
【解説】
太良修平 日本医科大学心臓血管集中治療科講師