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耳管開放症・耳管狭窄症[私の治療]

No.5049 (2021年01月30日発行) P.39

坂田俊文 (福岡大学医学部耳鼻咽喉科学講座教授)

登録日: 2021-02-01

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  • 耳管開放症と耳管狭窄症は,対照的な機能障害を持つ独立した疾患であるが,両者の性質を併せ持ち随時交代する,耳管閉鎖不全という疾患もある。その代表例は,鼻すすり型耳管開放症であり,しばしば診断が困難な例に遭遇する。

    ▶診断のポイント

    日本耳科学会より,「耳管開放症診断基準案2016」および「耳管狭窄症診断基準」が公開されている。耳管疾患を疑ったときは,耳管が閉じにくい相(便宜上,以下,難閉相)にあるのか,開きにくい相(便宜上,以下,難開相)にあるのかを吟味する。典型的な耳管開放症は難閉相と正常相を往復し,耳管狭窄症は難開相が主体となる。耳管閉鎖不全は随時,難閉相,難開相,正常相の状態を示す。典型例であれば比較的容易に診断できるが,耳管閉鎖不全などでは確定診断までに時間を要することがある。

    適宜,耳管・鼓室開放処置と耳管・鼓室閉鎖処置を施行し,鼓膜の可動性や自覚症状の変化を観察することで相を把握する。前者の処置には耳管通気,バルサルバ法,トインビー法,鼓膜切開術,鼓膜換気チューブ留置術等がある一方,後者には体位変換(前屈位・仰臥位),綿棒による耳管咽頭口閉鎖,口腔内保湿ジェルの耳管内注入などがある。特に鼓膜切開術や鼓膜換気チューブ留置術,耳管内への薬剤注入は診断的治療とも言える。耳管機能検査装置と坐位CTは有用であるが,それらがなくとも診断できる例はある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    まず病態の理解を促し,中枢疾患や失聴とは無関係であることを説明する。特に耳管の開閉機構は大切で,健常者は嚥下と大きな開口で短時間開大すること,それ以外では耳管周囲の筋肉・脂肪の圧迫力,毛細血管内の血液の圧迫力,自律神経の作用(副交感神経優位)によって閉鎖が維持されることを示す。この説明によって診断的治療や治療方針の理解をも促すことができる。

    治療にあたっては,目標設定と共有が重要である。耳管狭窄症では対症的な外科的治療で症状消失も期待できるが,耳管開放症では必ずしも症状消失でなく,生活に支障が少ない小康状態に導くことが当面の目標となる。このとき自然寛解がありうることも説明しておく。問診やVAS(visual analog scale)による苦痛度を参考とし,経過観察中は適宜NRS(numerical rating scale)で評価する。

    耳管開放症や耳管閉鎖不全(難閉相)においては,どのような治療を選択する場合でも,生活指導と応急緩和手技の説明を行い,長期化する場合は緩和トレーニングを指導する。

    耳管開放症の基本は,内服治療と生理食塩水の自己点鼻を中心とする。それが無効な場合には耳管内への薬物注入を行い,コントロール不良の場合には外科的治療として耳管ピンを挿入する。耳管閉鎖不全の場合は,難開相と難閉相のどちらが苦痛かによって治療の優先順位を決める。どちらも同程度であれば,両者に対する治療を適宜組み合わせる。診断的治療の場合を含め,緩和を狙った相とは別の相の症状が顕著となる場合があるので,患者には事前に説明しておく。

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