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細菌性髄膜炎(成人)[私の治療]

No.5051 (2021年02月13日発行) P.36

三木健司 (長岡西病院副院長・神経内科部長)

登録日: 2021-02-12

最終更新日: 2021-02-09

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  • 細菌性髄膜炎は,初期治療が患者の転帰に大きく影響するため,緊急対応を要する疾患である。本症は数時間で意識清明から昏睡へ悪化し,さらには死亡する場合もあり,治療に際して緊急性を理解して臨む必要がある。成人の細菌性髄膜炎致死率は20%前後,生存者の約30%に後遺症を認める。細菌性髄膜炎が強く疑われた場合には,神経感染症に詳しい専門医のいる病院への転送を考慮すべきである。しかし,治療開始まで1時間以上かかることが予想される場合には治療開始を優先する。
    わが国の細菌性髄膜炎の発生数は,年間約1500人と推定されていた。しかし,ヘモフィルスb型インフルエンザ菌(Hib)に対するワクチン定期接種開始後,小児を中心にインフルエンザ菌による細菌性髄膜炎発症数は減少している。さらに,その後の肺炎球菌結合型ワクチン接種の広がりとともに,成人の細菌性髄膜炎プロファイルも変わっていく可能性がある。

    ▶診断のポイント

    細菌性髄膜炎の典型的成人例で4徴を呈するのは4割程度,3徴でも6割程度である(頭痛85.9~87%,項部硬直82~84.3%,発熱77~97%,意識障害66~95.3%)。発症経過は,数時間のうちに急速に進行する急性劇症型と,数日かけ進行性に悪化する場合がある。臨床症状から細菌性髄膜炎を疑った場合には,腰椎穿刺による髄液検査(髄液細胞数・髄液糖濃度・血清糖・髄液蛋白量・グラム染色)を速やかに行う。ただし,髄液検査前には頭部画像検査(頭蓋内占拠性病変や脳ヘルニアの所見)や脳ヘルニアを示唆する臨床所見(視神経乳頭浮腫,一側または両側瞳孔固定・散大,除脳・除皮質肢位,Cheyne-Stokes呼吸,固定した眼球偏位)から脳ヘルニアが疑われないことと,髄液検査の禁忌(血小板減少時,出血傾向,出血斑の存在など)でないことの確認が必要である。検査を行うことで治療開始が1時間以上遅れる場合には,治療開始を優先する。

    髄液初圧の上昇,髄液多形核白血球数の増加,髄液糖の低下(髄液/血清糖比≦0.4),髄液蛋白の上昇(≧50mg/dL)は,細菌性髄膜炎を示唆する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    本症の治療は,その地域における年齢階層別主要起炎菌の分布,耐性菌の頻度および宿主のリスクを考慮して抗菌薬選択を行い初期投与を開始し,起因菌確定後は菌種と感受性に応じて薬剤変更を検討する。「細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014」では,日本での疫学調査結果に基づき,成人細菌性髄膜炎の初期投与薬は年齢と免疫能,リスク因子によって推奨される抗菌薬が細かくわかれている。本来であればこれに沿って治療方針を決定するのがスタンダードであるが,今回のような限られた誌面ですべてを記載するのは難しい。しかし俯瞰してみてみると,免疫能が正常と考えられる16~50歳未満はメロペネム,50歳以上もしくはリスク因子を伴う場合にはメロペネム+バンコマイシンを選択すれば,一定の抗菌スペクトルが満たされるということがわかる。

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