肘関節は上腕骨,尺骨,橈骨の3つの骨から構成されるが,肘関節脱臼はその中で上腕骨に対して前腕,すなわち尺骨と橈骨が一体となって脱臼する病態を指し,腕尺関節に対して橈骨が脱臼する橈骨頭脱臼(モンテジア脱臼骨折を含む)とは区別される。成人では肩関節についで肘関節に脱臼が多く,骨折を伴うことも多い。骨折を伴う脱臼(複雑脱臼)では,不安定性や易脱臼性を生じることが多い。
肘伸展位で手をつき,過伸展を強制されて起こる後方脱臼と,側方ストレスにより靱帯損傷を伴って起こる側方脱臼が多い。
内側および外側の側副靱帯損傷や,尺骨鉤状突起骨折・橈骨頭骨折など骨傷,尺骨神経障害などの合併症がしばしば認められる。合併症を見逃すと関節不安定症や拘縮,神経障害による機能低下をきたすため,その鑑別は重要である。
受傷直後では整復は容易であるが,時間とともに肘は腫脹して整復が困難となり,時に全身麻酔下の整復を要する。骨傷を伴わない単純な脱臼では,整復後良好な整復位を外固定で2週間程度維持すれば,比較的予後は良好である。しかし,重度の靱帯損傷や関節周囲の骨折を合併する場合には,外固定されていても良好な整復位が保持できず徐々に亜脱臼を呈することが多い。その場合には躊躇せず手術による整復固定を行う。①内側側副靱帯損傷と前腕屈筋・回内筋群の断裂を合併して著明な外反動揺性を呈する例,②尺骨鉤状突起骨折を伴い後方に亜脱臼を呈する例,③橈骨頭が粉砕し,肘関節が冠状面で外反方向にずれて橈骨頭骨片が転位する例,④外側尺側側副靱帯(LUCL)が弛緩して腕尺関節が橈骨頭とともに後外側に回旋転位する例〔後外側不安定症(posterolateral rotatory instability:PLRI)〕,などがそれにあたる1)。
受傷から3週(できれば2週)以内に屈伸運動を始めることが,機能回復の上では重要である。整復後に関節内に骨片が介在することもあり,これらに関する診断と評価が重要である。X線像は単純の2方向に加え,痛みのない範囲で内外反や回内外での動態撮影,また骨傷を伴う場合にはCT,軟部組織損傷にはMRIが有用である。
ただし,不安定性を残したままの早期可動域訓練は,関節の適合性を損なうことにつながり,特に不安定な骨傷を合併する場合は運動訓練を急いではいけない。また,脱臼後には肘関節周囲に異所性骨化をきたすことがあり,この場合に強い受動可動域訓練を行うと増悪して,さらに可動域が悪くなることがある。これらを考慮して,後療法の進め方を決める必要がある。
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